「ここがニホンか」
と窓の外を見て呟く男は、英国人のアーサー・ウィリアム・ショートである。彼は、観光のために日本に来たのだ。空港に着くや否や、伸びをして、さっさと検疫カウンターを抜けると、入国審査を受けた。入国審査を担当するのは、AIである。これを見てショートは、日本人を心から賞賛した。英国では、狂ったようにAIを配備しまくったせいで、失業率が上がってしまったからだ。AIを程よく運用できている日本は、彼らにとって憧れの的である。彼はそのまま、パスポートを受け取って、荷物受け取りなども終えると、到着ロビーへ出た。
ロビーには中東やアフリカの人間が一番多かった。奴隷貿易船みたいに、ぎゅうぎゅうになっていた。東洋人や東南アジア人はその次くらいで、白人はとても少ない。子供の頃、ニュースで見たドイツのようだった。彼はちょっと落胆して、アフリカ人や中東人の背中を睨みつけながら、ロビーを出た。
狭っ苦しいロビーから解放された彼は、一目散に空港を出た。案の定、外は中東人やアフリカ人で一杯だった。バスやタクシーに死に物狂いで乗り込んでいる。これぐらい見苦しいことはそうそうないなと、彼は思いながら、端末を片手にタクシーを待った。
二時間ほど待ったところで、やっと彼の番がやってきた。彼はホッと一息ついて、端末をしまうと、タクシーの中の入ろうとした。その時、突然後ろから現れたアフリカ人に後頭部を殴られ、蹴り倒された。彼は痛みに身悶えした。そのアフリカ人は苦しむ彼を見ようともせず、乗り込もうとした。すると、今度は別な中東人が彼を殴った。忽ちに喧嘩が始まり、ドイツと同じような工合になった。地面に伏している彼は、何度も踏みつけられ、けられた。彼は、畜生、畜生と叫び、必死にもがいていたが、ついにどうしようもないと悟って、じっとした。そして、彼は、こんなことで、クソ難民に殺されてしまうなんて、と思って、涙を流した。その時であった。
「白人様に何をしている!」
突然現れた日本人の集団が叫んだ。彼らは、難民集団を、スタンガンや棒で打ちのめすと、ショートや他の白人を丁重に助けた。ショートは日本人の優しさに直面して、また涙を流した。だが、先ほどとは違う涙だ。すると、ある日本人は突然ショートの目の前に座って、
「白人様、申し訳ありません!」
と叫んで土下座をした。しかも、額を地にグリグリと押し付けている。そして、
「我々の頭を踏みつけてください」
と裏返った声で懇願した。