私はとにかくラルテルに嫉妬していたため、彼を陥れようと考えあぐねていた所だった。
そこでラルテルに不満を持つ王を味方につけられるかもしれないと踏み、ある讒言を創り上げることを持ちかけた。
それは、ラルテルが隣国に軍事情報を漏洩させているという罪をでっち上げ、島流しの刑にするという算段だった。
彼は真面目で愛国心があるので最初は周囲も半信半疑であったが、隣国に婚約者を持っていたことが幸いして信憑性も高まり、次第に幹部の信用を勝ち取ることに成功した。
死刑にしなかったのは、彼を慕う貧乏民が暴動を起こさないようにと配慮したからである。
彼らは地理に疎いので、島流しであればいつか戻ってくると信じて大人しく待ってくれる。
愚かだ。
彼の流された島は、ヨーロッパへ泳いで帰れるほどの距離ではない。
新しく発見されたアメリカ大陸付近の孤島、フランリー島である。
周囲に島はない上に害獣も多く、さらに野蛮な原住民がいる。
以前探索に派遣された使節団は原住民に攻撃を受けて引き返したという記録がある。
たとえ島に辿り着いたとしても、原住民に侵略者として殺されるのが顛末。
いくらラルテルとはいえど、未曾有の地の言語で意思疎通することはできないだろう。
「国王。手筈通りラルテルを始末して参りました。島流し……と言っても、海に放り捨てたので今頃海底で骨になるのを待っていることでしょう」
「そうかそうか……! では約束通り、君にラルテルの地位を埋めてもらおう」
国王は豊かにたくわえられた白髭を撫でながら、満足そうに微笑した。
私はラルテルの持つ大佐という地位を齢20歳で手に入れられることに心臓が暴れるような喜びを感じていた。
否、それだけではない。
何せラルテルの婚約者であるレアンヌ嬢は、ラルテルとの婚約を破棄しなくてはならない。
私は前々から彼女を好いていた為、悲しみに打ちひしがれる彼女につけ込んで婚約まで持ち込むつもりである。
「ではよろしく頼むよ、アシメア大佐」
「……はい」
国王にそう呼ばれて実感が沸き、私は気を引き締めて敬礼した。
と、その直後であった。
慌ただしい足音と共に、ノックが四回。
「なんだ騒々しい。入れ」
国王が許可を下すと同時に扉が開き、初老の男が顔を真っ青にして室内へと雪崩込んだ。
「大変です国王! 極秘だったフランリー島の地図と、船や武器の設計図、それと……病原菌の抗体が何者かに持ち出されているようで……!」
男性は膝をつきながら、息を切らして途切れ途切れに言葉を紡いだ。
彼の言う"何者か"は考えるまでもなくラルテルである。
「やつめ、生き延びるつもりか……!」
「心配ご無用ですよ、国王。仮に船の設計図があったとしても、作る道具や資材がありませんから。作れたとしても、せいぜいイカダでしょう。イカダで大海原は横断できません」
焦燥する国王を宥めるように言えば、国王はすぐに微笑みを取り戻した。
「それもそうだな。やつはもう、帰ってくることはできまい。それこそ、奇跡が重ならぬ限りな」