──私は死者が見える。
ちなみに"私"は僧侶でも霊能力者でも無く、どこにでもいる女子高生だ。
サラリーマンのお父さんに専業主婦の母、自宅は団地の6階、都内の公立高校、好きな俳優は菅田将暉。
クラスに同じような女子は多分あと5人いる。
この力に目覚めたきっかけで思い当たるのは、1年前に友人の墓参りをしていたら、墓石に思いっきり頭をぶつけたこと。
幸い出血は無かったけど、それ以降どういうわけか見えないものが見えてしまっていた。
帰り道に渋谷のスクランブル交差点で足が透けてる人を四、五人見た時は思わず立ち止まってしまい、人の波に呑まれたのを思いだす。
一応魂と会話はできるが、接触や除霊はできない。
なんだかアニメや映画などのフィクションにありがちな設定だと思われるかもしれない。
けどフィクションは幽霊を誤解している。
彼らは未練を残して成仏できずにこの世にいるわけではなく、ただ魂が消えるのを待っているだけだ。
100日すれば、未練があろうと無かろうと、魂も泡がぱちんと弾けるように消える。
人は二度死ぬ。
一度は肉体が機能を停止した時。
そしてもう一回は、魂が消滅する時。
肉体が機能を停止してから100日は生前の姿のままふらふらと漂っているが、100日すれば魂ごと消える。
この世からあの世への移行期間というわけでもなく、本当に消滅してしまうらしい。
私からすれば仏教の輪廻転生、極楽浄土なんて詐欺もいいところで、報われもしないのに仏道修行に励む寺の人を冷めた目で見ていた。
どうしてこんなものを何百年間、何万人も信仰しているんだろう。
「あーあ、なんの為に生きてんだろ。どうせ魂は消えんのに」
霊が見えるようになって実害は特に無かったが、なんだか生きる気力を失ってしまった。
死ぬのは嫌だけど、生きる意味も見つからない。
どれだけ現世で良い行いをしても、来世で報われるわけでも極楽浄土に行けるわけでもない。
だから私は、少しずつ、人の見ていないところでサボったりズルをするようになっていた。
どうせお天道様は見ていないから。
>>02 あらすじ、人物紹介