高校一年に入学したばかりの5月上旬。
家庭の事情で入学が遅れたという男子が教壇に立たされ、改めて紹介された。
「実質転入生みたいなものね。自己紹介して」
「……福司黒哉です。よろしく」
学ランの下には紫のパーカーが覗いており、軽い気崩しが垢抜けている。
黒髪はところどころハネが目立つ天然パーマ。
確かに整った顔立ちで少しドキリとしたが、それよりも私が釘付けになったのは、彼の頭上を浮遊する少女だった。
彼とお揃いの黒髪天然パーマを肩まで伸ばした、紺のセーラー服を着た女の子。
──死んだ身内か。
「先生、もういいですか」
「あぁごめんなさい、どうぞ席について」
担任に促されて嫌々というような感じで紹介をした彼は、一秒でも早く着席したいと言わんばかりに自己紹介を切り上げ、自席に戻った。
てか、その自席って私の隣じゃーん!
当然、彼の頭上を浮遊していた少女もふよふよとこちらへ飛んでくる。
「クールな感じでかっこいいよね」
「でもなんかサブカル男って感じ〜。beatsのヘッドホンなんかしちゃってさ」
「別にそれくらいよくない?」
後ろの方でコソコソと耳打ちする女子の声が私にまで聞こえていうことは、恐らく福司君本人の耳にも入っているのだろう。
彼は気に留めることなく、スマートフォンで高速タイピングを続ける。
『くろ、ホームルーム中なんだからスマホいじるのやめなよ〜。また事件の記事なんか見て』
女の子は福司君の彼の目の前に降り立つと、彼の目の前で手を振っておーいと呼びかけていた。
もちろん福司君の目はスマートフォンの画面に落とされたままだ。