リーベライヒ。
その魔人族の若者が逮捕された回数は20を下らないと言われている。······その容疑の殆どは武器の密売であった。
彼が持つ、魔法とは少し違った能力は『触れたものを武器へと変換する』というものである。これにより彼はいとも容易く金を稼ぎ、犯罪を犯すことができた。······そして牢屋に入れられた後も、主には鉄格子を細剣に変換し、幾度となく、しかも容易に脱走してのけた。
そんな彼はついに王国の地下牢······永遠に出ることは許されないという絶望の牢屋に収容される。······しかし、彼はそこすらも脱走した。しかも二度も。
一度目は単独で脱走したため、地上に出てからおよそ3時間で確保された。······しかし二度目は、自分一人ではなく、他の凶悪な犯罪者達も共に脱走させたのだ。
そして、脱走から一ヶ月近く経つ今も、目撃されたという情報はどこにもない。
「ちょっろ······」
そして、闇に紛れる路地裏。そこには人相が悪い者が何人かたむろしていた。······その中にはリーベライヒの姿もある。
「なるほど······前のは下見というわけか。よくやったな······若造もたまにはやるじゃないか」
「······くれぐれも油断はするなよ。見付かって捕まったら元も子もない。······この中で念話魔法使えない奴居たら手を挙げろ」
その声を聞いて、手を挙げた者は一人もいない。凶悪犯罪者は高位の魔法使いであることが多い────というか、使える魔法の幅が広くないと凶悪犯罪は起こせない。まるでそれを象徴したかのような結果だった。
「······よし。全員俺を中心として繋ぐんだ······いいか?主導したのは俺だ。よって俺が指揮を執る」
リーベライヒは静かに言った。その手には細剣が握られている。
······周囲の犯罪者達は彼に従った。細剣が怖いからでは無い。どちらかと言うと、彼の手によって文字通り武器にされる方が怖いので従うのであった。
「······よし。最初の命令だ。全員王国中をくまなく探せ。使えそうなものがあったら何でもいいから報告しろ。見つかった場合はこの集団のことは一言も話すなよ······そうなったら俺が直々に出向いて『使って』やるから」
闇が、動き出す。