「······さて、どこからどうしましょうか······」
アリサは二人に向けてのんびりと言う。······二人というのは、スミレとネアのことである。何せ安全さが今までとは天と地ほども違う。そのためベルシリーズの二人とは、明日は教会の前で落ち合うとの約束を交わし別れたのだった。
「とりあえず······何か質問はありますか?ほとんど聞いた話ですけど······答えられるものには答えますよ」
ゆっくりと歩きながらアリサは言った。
ネアはそれに敏感に反応する。
「うんー······聞きたいこと、いくつかあるんだけど······まずは、ここの結界について。······誰が張ったの?」
結界。町を守る、あの青色の分厚い膜。あれほどの大きさ、あれほどの分厚さ······生半可な結界魔法ではとても間に合わない規模の結界である。
それを誰が張ったのか······ネアだけでなく、スミレも気になっていたことである。
「あー、あれは······誰、というか。王都から逃げてきた六人のシスターが、王子と一緒に持ってきた魔石······そこに込められていた結界魔法によるものです。誰が付与したのかは分かりませんが······相当な能力を持っていたようですよ、その人······」
アリサは滔々と述べる。しかしそれを聞いた二人の反応は、いずれも驚天動地と言っても相違なかった。
「王子······?六人のシスター······?あと······」
やっぱりアリシアさんだ、との声は出てこなかった。······だが、魔石に付与してシスターに手渡したのだとしたら······彼女は、あえて······
そこから先は考えないことにした。それにしても、
「シスター、というとー······」
「······はい。もう200年も前のことになりますので······申し訳ありません、名前は忘れてしまいました。ですが、今でも当時のことは······鮮明に覚えておりますよ」
アリサは瞑目した。
「······歩きながらする話じゃないですね。この話はまたの機会にしましょう」
ゆっくりと目を開きながらアリサは言った。······果たしてその『またの機会』は来るのだろうか。不満というより不安である。
「······もう少し見ていきますか?」
その代わりとでも言うかのように、アリサは後ろの方を指差す。
「もうあんまりお腹空いてないんだけどー······スミレはどうする?」
「私もいいかな。······アリサさんが行きたいならついていきますけど······」
元々アリサは一人で屋台や露店を回っていた。自分たちが現れたことでそれが中断されたのではないか、ということをスミレは考えていたのである。
いや、それよりも深い所まで見ていたのかもしれない。
「······着いてこなくていいです。ちょっと一分ほど待ってください」
そう言い置いて人混みの中に消えていくアリサ。虚弱そうな外見で、いや実際そうなのだが、驚く程の俊敏さであった。
「ふぅ。お待たせしました」
戻ってきたアリサの手には小さめの瓶が握られていた。一体何を買ってきたのだろうか。
「いえいえ。······もう大丈夫ですか?」
「はい。······って、駄目ですね、案内する側なのに······」
彼女はその顔に軽い苦笑を浮かべた。少しだけ申し訳なさそうな成分も混じっている。
そしてスミレ達が何か言う前に先程までのような調子に戻り、
「そういえば、ここ······ドラム公爵領には城が建てられてるんですよ。勿論王都にあったものより規模は劣りますが······逃げてきた当時の王子の為に建てられたものでして······見ていきますか?」
そう言った。
公爵領の中心と言えば領主館であるが、その隣に建てられたのが話題に上った城であるらしい。
「城、かぁー······」
城があるということは、王家は未だに続いているのであろう。呟いたネアの表情には複雑なものがあった。しかし、
「まあ無理にとは言いませんが······」
「······うん、行くよ。出来ればだけどー······王家の人にも会いたいしねー」
アリサの言葉が決め手となった。この辺りは話術なのだろうか。
······ともかく、三人はドラム公爵領の中央へと足を向ける。
【ちょっとあとがき】
200レス(話ではない)!?200レスですよ!?
ここまでずっと見てくださった方、本当にありがとうございます。これからもだらだらと広げた風呂敷を畳んでいきますので、のんびりとお付き合いくださいませ。