あれから何十分が過ぎた。室内では要がせっせと四人分の食事を用意し、テレビの前には須波彩夏(すなみ あやか)と絹形朝陽(きぬがた あさひ)が画面を睨みつけて立っている。
二人が勝敗に必死なのには理由がある。この二人はゲームで戦って負けた方がその日のデザートを奢るという決まりがあるのである。否、この二人だけでなく、要や貴結にもこの決まりは適応されており、ごく稀に四人で楽しむこともある。が、要は誘えばいつでも乗ってくれるが、貴結の方は本人の気が向かないとなかなか乗ってくれないのである。今日の勝者はーー
「やったね!今日もあたしの勝ちっ!」
どうやら彩夏が勝ったらしく、朝陽はその場に崩れ落ちる。ここ3日、彼は彩夏に連敗しており、容赦のない彼女のリクエストのせいで金欠になりかけているのである。勿論、アルバイトもしているのだが今月は足りそうにない。
「じゃ、今日はあそこのチョコレートね!」
「年下にスイーツいびってお前は恥ずかしくないのか」
「あら、あんた最初に言ったじゃない。俺のことは年下だと思うなって」
ふふん、と彩夏は鼻で笑って、見下すかのような表情で朝陽を見つめる。無論、彩夏の方が身長は小さいが。
「はいはーい、勝負ついたなら昼飯作るの手伝ってくれー」
りょうかーい、と軽く返事をして彩夏はゲームを片付ける。朝陽も仕方なさそうに立ち上がってから片付けを始めた。その間にもリビングの方から美味しそうな香りが溢れてくる。
「はい、今日はサンドウィッチだ。具はある程度作ってあるからこっちにまとめてるのとそっちでまとめてるのを分担して挟んでいってくれ」
「オッケー!じゃ、あたしこっちね」
「んじゃ俺そっちのやる」
貴結を誘ってみることもあるのだが、彼女はこういう作業にはほとんど参加しない。気まぐれに参加したりしなかったりするのだ。
さらに数十分後。サンドウィッチの入ったバスケットを持った朝陽、飲み物を持った彩夏が木の下のテーブルの方へ歩いてくる。戸締りを終えた要も後ろから走ってくる。
「はいはーい、貴結さーん。食事の時間ですよー」
母親のように彩夏が呼びかけると、貴結はパァッと顔を輝かせて本を閉じた。テーブルクロスを引き直して、どうぞと言わんばかりにテーブルの方を指して笑う。そう、貴結は本を読む以外にも食事も好きなのだ。だから食事で釣るとすぐに読書を中断し、真っ先に準備を始める。残念ながら作る方には興味がないらしいが。
「それじゃ、食べよーぜ。せーのっ」
いただきまーす、の声が重なる。貴結の取り分は尋常でないスピードで無くなっていくのは勿論、もう一人の取り分も尋常じゃないスピードで減っていく。朝陽だ。彼もまた、貴結と同じくらい食べるのだ。この共同生活で食費がかかるのは彼ら二人のせいなのである。
「まったく、もうちょっとゆっくり食べられないのか…」
「急がなくてもあたしたちは食べないわよ」
年上の二人は呆れて、彼らの胃に飲まれていくサンドウィッチを見つめていた。