「──というわけで、1階の人は申し訳ないけど、来週から3ヶ月間だけ社員寮退去をお願いしますね」
──社員寮が燃えた。
といっても大規模な火災ではなく、一階の内二部屋が燃えただけに留まったのだが。
しかし思いの外傷んでいて修繕が必要だったようで、この際老朽化したところは徹底的に直そうという次第だった。
「俺らは近くに実家があるから別にいいけど……零壱(ぜろいち)、お前の実家って新潟だろ? 会社がホテルとか手配してくれんの?」
「いや特には……近場のアパートを借りるよ」
こういうのって普通は会社側が責任をもってホテルなり代替の住居を用意するべきなのだろうが、うちの会社はブラックな所があるのでその辺の保証は無い。
会社近くの──通勤時間1時間以内のマンスリーマンション等を借りられれば良いのだが、結構な人数が寮から追い出されるため、会社の周辺はかなり倍率の高い争奪戦になるだろう。
「3ヶ月間だけなんだべ? アパートじゃなくても、ウィークリーマンションとかさぁ」
「いや……もうこの際だから社員寮を出てくことにした」
俺はスマートフォンを取り出し、ブックマークしておいたアパートの入居者募集ページをスクロールした。
「ここに決めたんだ」
「へぇ、結構ここから近いじゃん。値段も悪くねぇし」
敷金、礼金0円、駅から徒歩10分、家賃3万、事故物件でもない。
しかしまさかこの部屋がとんだ"事件物件"だったなんて、この時の俺は知らなかった。
仕方ないだろ、どこにも記載されていないんだから。