親が反社会的勢力のせいでバイトができない

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2:匿名のギャング:2020/11/13(金) 12:38

「わ、悪かったよ、オマエらのモンに手ぇ出したのはよ、謝るから……許してくれぇぇえ!ミディスピアーチェ、ミディスピアーチェ!」
「お前の謝罪に、損失した10万ユーロ分の価値があるとでも? つーか……イタリア語ヘタクソ……」

新宿の夜の路地裏に、ひっそりと金属が弾ける。
アスファルトに倒れる男の命乞いは、銃声にかき消された。
男の息の根が止まったのを静かに見届けた青年は、まだ煙の立ち上る銃をジャケットの内ポケットに仕舞おうとして悲鳴を上げた。

「マジかよッ、この一張羅すっげぇ気に入ってたのに!」

イタリア製の1200ユーロ(15万円)した薔薇の刺繍入りジャケットに、薔薇ではない"赤"が跳ねていた。

「こいつ確かB型……ちくしょー、俺と相性の悪い血だぜ」
「だから言ったろチェスコ。ジャケット1枚買うのに苦労するような新人が、格好つけて任務に着てくるなって。血で汚れんのは分かってたことだろうが」
「けど安っぽい服なんか舐められるだけッスよぉ……」
「新人なんてそんなもんだ」

裏の世界で普段から上等な服を着ていいのは、血で汚れちまっても替えのスーツを沢山持ってる地位の奴に限るんだ。
もっとも、そんな地位まで登り詰めれば血で汚れるような仕事はそうそう回ってこねーけどな。

チェスコは、悟ったように語る中年の上司を見上げた。
くたびれたスーツはシワだらけだ。

20歳で"組織"に属して早20年、四十路に入ったにも関わらず、幹部どころか新人指導しか任されないという青年の上司。
"この世界"は年功序列ではない。

もっとも彼の場合、評価されないというより"新人教育"が天職過ぎて現場に駆り出されるだけで、待遇は悪くない。
現に彼は凄腕殺し屋やらマフィアのボスやらを何人も輩出しており、青年──チェスコも未来を期待された内の一人である。

「シミ抜き苦手なんだよなぁ〜。こうなったらクリーニング屋にでも持ちこんで──」
「馬鹿、こんなジャケットをカタギの店に持って行くな! 諦めて捨てるか……どうしても着たけりゃリンゴのアップリケでも付けてごまかすんだな。

上司の小粋なジョークにも笑えず、眉をひそめて不貞腐れる。
諦めきれずに何度も血のはねた裾を擦ったが、むしろシミはじんわりと広がり逆効果で、更に苛立ちが募る。

「どっかにねぇかな〜……どんな血塗れの服を持ち込まれても、決して理由を探らない。マフィア御用達のクリーニング屋……」


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