──私は反社会的勢力と関わりがないことに同意します。
明朝体で長々と綴られているバイトの誓約書に、レ点を付けけるのをためらう。
「あの〜……これってその……親がその……やく、ヤクザ……とか……って……」
男子高校生──深海珊瑚(ふかみ さんご)は歯切れを私悪くして尋ねた。
「あー……親御さん"ソッチ"の方……? 申し訳無いけど、揉め事を避ける為にも御家族の方にそう言った組織に属されている方は御遠慮頂いてて〜」
「で、ですよねー……」
(属してるっつーか、元締め……)
店長の口調は丁寧だったが、珊瑚は苦笑いの奥に嘲笑を見た。
そんな軽蔑を含んだ視線にも慣れてしまって、数年前までは俯いて戸惑っていた珊瑚も、現在では乾いた笑いを返す余裕ができている。
「すみません……今回はやめます……」
「申し訳ございません〜」
全然、申し訳なさそうな感じのしない空謝罪。
元々ダメ元で半ば諦めかけていた珊瑚は、深いダメージを負うことなく事務所を退出した。