黄色と、エナメルバッグ。

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5:ヒヨドリ:2021/01/15(金) 19:39


入学式後にHRが開かれ、案の定、と言ってはなんだが、俺は学級委員に推薦され、クラスをまとめる役割を引き受けることになった。先程話しかけてきたバスケ部の女子も同じく学級委員に選ばれた。担任の先生は軽く自己紹介をした後、再度、中学生としての自覚を持つようにと念を押した。中学生としての自覚はもう既に自分の中で持っているつもりなのだが。
HRが終わり、廊下に出た。丁度、2年生のクラスもこの時間で終わりのようで、廊下の奥の教室から生徒が何人か出てくるのが見えた。頭にスケジュールを思い浮かべ、1年生の体験入部は来週からで、自分は特に用事もなく帰れることを考えた。
「よっしゃー、ゲームしよ!」
誰に声をかける訳でもなく、大きめの声で呟いて配布物をカバンにしまい込み、廊下へ出た。2組と3組はまだ授業が終わっていないのか、まだ教室の前に人はいなかった。

その時、左斜め後ろから突然、何かの衝撃を感じた。考えている暇は一瞬もない刹那の出来事だった。体をガードする暇もなく、二三歩ほど前に押し出され、自分が人とぶつかったことに気がついた。
「ごめん! 大丈夫?」
身長は同じくらいだろうか、帽子をかぶった男と目が合った。顔を覗き込まれたこともあり、驚きで言葉を失った。髪の毛は短く、中性的な顔立ちをしていながら、眉目は整っていた。イケメンだとは思わなかったが、最近ではこんな雰囲気の顔がモテるのではないかと思った。
足元を見るとシューズの紐は赤で、ひとつ上の先輩であることが分かった。
「大丈夫……?」
再度聞かれ、自分が黙っていたことに気がついた。その人は被っていた帽子を取っていた。
「いや、大丈夫です。 すみません」
その人はごめん!と、再度謝り、階段の方へかけていった。肩からかけていた紺色のエナメルバッグは、大きな音を立てて揺れていた。そして、その人が階段横の角を曲がると、その音もすぐに聞こえなくなった。


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