カップ麺が出来上がる間の3分間。
あたしが何を考えるのかというと、昨日見たつまらないローカル番組のこととか、ホームセンターで売ってた良さげな家具とか、ソシャゲの新キャラとかのこと。
まあ実につまらない。でも、逆にこの3分間で修行僧並みのすごいことを考える方が難しい。いや、修行僧ならむしろ何も考えずに瞑想するんじゃないか…といういかにもどうでもいい考えがまた次から次へと浮かんでくるので、とどのつまりはどうしようもない。
ただ頭の中を流れる言葉を脳がキャッチする。そういう時間だ。
そんなこんなで3分が経とうとしていた時、ふいに少し離れた玄関で扉が開く音がした。
あたしが音に気付いて目線を玄関に向けると、それは姿を現した。
痩せぎすの体に似合わない背広と薄幸漂うやつれた顔。
こんな貧乏神みたいな見た目をした中年のおじさんが…
「おかえり、社長」
「ただいま…」
ここ、芸能事務所『ILIS』の社長、倉松清である。
つまりあたしはれっきとしたアイドルだ。
16歳の夏頃、倉松社長にスカウトされて以来かれこれ4年はここにいる。
深いため息をついて背広を脱ぐ社長を背後に、あたしはカップ麺のフタを外した。
台所の棚からいくつもある割りばしを1本取り出して、熱々のカップ麺を手に元いたソファーに向かう。
ドサリ、と音がしてあたしの体は綿に沈んだ。
「さーて、いただきまーす!」
ぱんっ!と手を合わせ、片手に添えた割りばしをカップ麺に突っ込む。
ズルルル!途端に麺をすする音が部屋中に響き渡った。
これ!これですよ!至福の時間!
「っあーー!! うまいっ! インスタント神!」
「ほんとに好きだねぇ」
あたしの向かい側に座った社長が微笑みかける。
「まあカップ麺とプレステさえあれば生きていけますから!」
「あの、優希ちゃん…」
「ん、なに? 仕事の話ですか?」
あたしは麺をすすりながら社長の顔を伺う。
モゴモゴして、どこか言いにくそうで、ちらちらと目ばかりが泳いでいる。
「社長ー、なんでも言ってくださいよー!」
「あ、あぁ…えっとね…」
「はい!」
「……次のライブで終わりそうなんだ」
「え?」