カタカタカタカタ。
「……うるさ」
カタカタカタカタ。
「……うるさいなぁ」
カタカタカタカタカタ……。
「うるさいっつってんだろ!」
私は思いっ切り壁を蹴り飛ばした。踵に鋭い痛みが走る。おかげで目が覚めてしまった。
「せっかく寝てたのによー……」
ぼさぼさの髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き毟りながらゆっくりと起き上がる。カーテンの隙間から真っ白な太陽の光が差し込んでくる。
「……朝かー」
ぼーっとしながら窓の外を眺める。
いつもこうだ。私は毎朝あの音を目覚まし代わりに起きている。
「お母さん、おはよー」
大きな欠伸をしながらリビングに出ると、お母さんがキッチンで目玉焼きを焼いていた。ベーコンの香ばしい匂いがリビング全体に広がっている。
「お腹空いたぁー」
そう呟きながら食卓に座ると、
「先に顔洗ってきなさい!」
すぐさまお母さんがそう叫ぶ。
「へいへい」
めんどくさいなぁ、と思いつつも、私は立ち上がって洗面所へ向かった。
顔を洗って化粧水と乳液を付けてリビングへ戻ると、お母さんが手招きしてくる。
「なに?」
「これ、お兄ちゃんの部屋まで運んでくれない?」
そう言って朝食が並べられたお盆を押し付けられる。
「はぁ?何で私が?」
「ね、お願い!昨日ちょっと口喧嘩しちゃってさぁ……。今日だけでいいから!」
「やだやだ絶対無理!キモイもん!」
「お兄ちゃんに向かってそんなこと言わないの!」
「お母さんだってあいつにうんざりだから口喧嘩なんかしたんでしょ!」
普段は絶対誰かと言い争ったりしない癖に!
「……いいから。ほら。手離すよ」
「わわ、っちょ」
私は反射的にお盆を持った。お母さんはほんとに手を離したから、あと少し遅れてたら床にご飯が散らばってたところだった。せっかくお母さんが作ったご飯なのに。あいつは自分で取りにすら来ないんだ。
「……分かったよ」
私は短い溜め息を吐いて、ぺたぺたと廊下を歩いた。
兄の部屋の前に立つと、あのカタカタと言う音がはっきりと聞こえてくる。
「入るよー」
ノックもせずに足でドアを開ける。すると途端にあの音は止まってしまった。
「うえ……」
ホコリ臭い空気が立ち込めた部屋に片足だけ突っ込む。
「朝ごはんだって。」
電気も付いてない、シャッターも開いていない真っ暗な部屋。ダンボールや漫画本などが散らばった床。その奥にはぼんやりと光を放つパソコンのモニターと、その前に座る猫背でストレートネックな醜い兄。
「ねぇ、聞いてんの?」
イライラする。私はわざとらしく足踏みをした。それでも兄はだんまりだった。
「お前さー、せめて自分で取りに来いよ!」
私はそう叫んでがちゃんと音を立てて床にお盆を置いた。
「さっさと出てけよクソゴミ野郎が」
私はそう吐き捨てて勢い良くドアを閉めた。
「きめーんだよ……」
部屋からは出てこないでほしいけど、うちからは出てってほしい。
まじでムカつく!