私の名前は美沢(みさわ)こころ。ごく普通の中学二年生だ。
別に普段からこんなに荒んだ性格をしているわけじゃない。これにはちゃんと原因があるのだ。
私の兄は、引きこもり――いわゆるニートだ。
中学生の頃からクラスで浮きまくりだった兄は、高校でも浮きまくり大学受験にも失敗した。そして就職活動もせず、高校を卒業してからはずっと部屋に閉じ籠っている。
毎日毎日、朝寝て夕方起きる生活。起きている間はどうやらオンラインゲームやネット掲示板に張り付いているらしい。兄と私の部屋は隣同士だから、嫌というほどキーボードを叩く音が聞こえてくる。
いじめられたせいか元々なのか知らないけど、兄は異常なほど他人を恐れている。さっきみたく私が部屋に入ったり部屋の前を通ったりすると途端にキーボードを叩くのをやめる。「遊んでませんよ」アピールなのかもしれないけどバレバレだ。四六時中パソコン弄ってるのが恥ずかしいって自覚があるならちょっとは離れろっての。てか就職しろし。
そして私が一番腹が立つのは、あいつは自分より弱いと見なした人に対しては強く出ようとするところだ。あいつはお母さんに対して明らかに当たりが強い。体格のいいお父さんと気の強い私からこそこそ隠れるストレスを全てお母さんにぶつけようとしてる。きっと昨日の口喧嘩の原因も、兄が暴言を吐いたからに違いない。
お母さんは「大丈夫」って顔をしてるけど、大丈夫なわけない。何で何も悪くない、むしろ迷惑掛けられてるお母さんが我慢しなくちゃいけないの?あいつが家から出てけば全て解決するのに!
「行ってきまーす」
お母さん特製の目玉焼きとトーストを平らげて歯を磨き、学生鞄を掴んだ。
「行ってらっしゃーい」
「今日も学校楽しみだなぁー」
私は兄の部屋の前を通る時、わざと大きな声でそう言ってやった。