ミシン。錦織美心(にしきおり みしん)。
なんと私、ミシンという名前である。
デザイナーの母と呉服屋の父の間に生まれ、手芸が好きな子になるように――と今は亡き母がつけたものだ。
由緒正しい呉服屋の父が黙ってないと思いきや『美しい心……いい名前だ』とただの当て字に意味を見出してしまい、結局そのまま役所に提出されてしまった。
そんな願いを込めて育てられた私だけど、心は美しくないし手芸は嫌いだ。
昔はそんなんじゃなかった。
今ほど捻くれてはいなかったし、手芸だって中学の頃までは母さんと小物を作ったり率先して服作りの手伝いをするくらいには好きだった。
鞄に付けたクマのストラップも母さんと一緒に作ったものだ。
けれど今は――。