「みここ〜、おはよ!」
「ぐえっ……おはよ、祈里」
ぼーっとストラップを眺めて回想に耽っていると、背中を思いっきり叩かれた。
祈里あがめ。
気兼ねなく会話できる数少ない友人だ。
みしんと呼ばれるのが苦手で、わざわざ"みここ"と呼んでもらっている。
「そういや教室が騒がしいみたいだけど……」
祈里の視線の先は、教室のど真ん中を渦巻く女子の群れだ。
中心にいる金髪の男子(名前は覚えてない)の机には、20cmほどの女の子のぬいぐるみがちょこんと鎮座している。
「エンジェリーコラボの新作で、日本に上陸してない限定デザインだ。30万ってとこだな」
「ひぇぇ〜30万?!すっげ」
「えっやば!」
「ね、インスタあげていい?」
人だかりは増えていき、シャッター音が響く。
「はー、貴島君新しいフレンドール買ったんだ〜。私も新しい子お迎えしようかな〜」
祈里のつぶやきで思い出した。
あの男は貴島雅(きじま みやび)とかいう、漫画にでも出てきそうな金持ちボンボンだ。
月に一度くらい海外旅行に出かけ、土産を持ち帰る度にクラスで得意げに自慢話をしている。