海が見える酒場。……そう言えばロマンチックだが、その酒場から見えるのは海……そこに浮かぶ残骸や瓦礫等だった。海賊達の夢の痕……そう言えば聞こえはいいが、実際猛烈に邪魔である。
酒場から見える遠くの海に、攻撃を仕掛けに来た一隻の異国船が見えるが、それも瓦礫に邪魔されてなかなか上陸できないといった様子である。
……それを見ても、ボルザー本土に反応はない。
酒場はだいぶ古びていたが、そこそこの活気があった。……半ばヤケクソ染みた活気が。
「……おい店主、もう一杯くれ!」
「こっちもだ!」
酒。……飲まずにはやっていられないといった様相だった。
そんな喧騒の中で、よれよれのシャツを着た一人の女性だけが静かにブドウジュースを飲んでいた。美形な細身で、歳は30にいくかいかないかに見える。金髪の髪はよく整えられていた。
「……おい、そこの姉ちゃんよ」
程なくして彼女に声がかかる。
ゆっくりと顔を上げると、先程騒いでいたマッチョでスキンヘッドの男がそこにいた。
「少し頼みがあるんだがなぁ」彼は薄く笑いながら声を出す。
……女性が周囲を見渡した時、いつの間にか酒場の全員の視線がこちらに集中していることに気付く。
「……なんでしょうか?」警戒を少しだけ声の調子に含ませ、反問する。
「有り金も身ぐるみも、全部ここに置いてけよ」
笑いの調子は変わらない。……ただただ普通のことのように。
「……はぁ。で?」
しかし女性はあろうことか首を傾げてみせた。……それだけで沸点が低い男は声を張り上げる。
「で?じゃねえんだよ!!いいか?俺らは泣く子も黙る海賊だ。……逆らったらどうなるか……分かってるよなぁ?」
周囲の屈強な男どもが一斉に得物を構える。ダガー、木刀、長剣、槍……室内で振り回すには危なすぎる代物である。
しかしそれを見ても彼女は冷静である。
「……短気すぎないかな」
苦笑いを浮かべる。
「外見た?今ここで争ってる場合じゃないよ」
そして静かに諭す。……しかし、短気な荒くれ者である男どもは聞く耳をもたなかった。
武器が一斉に振り下ろされる――――直後、何かが起こった。