壱話
私は幸せだった。
私は今の生活が幸せだった。
お金が無くても、母親が居なくても、贅沢な暮らしが出来なくても……
幸せだった。
「ほらさっさと金を出せ」
「今日払うつったよな?」
「申し訳ありません……!ら、来月までには必ずご用意しますので……!」
何年もの間、毎月の様に、私はこの光景を見ていた。
父の苦しむ顔を見るのは、今日でいったい何回目だろう?
私は電柱の影からそっと彼達の様子を伺う。
「お父さん、大丈夫かな」
私の名前は、赤城佐凛(あかぎさりん)。
所謂キラキラネームというやつだが、私はこの名前を特に気にした事はない。
母は幼い頃に亡くなり、今は父と2人暮らし。
このボロアパートにはもう何年も住んでいるけれど、普通の人が思う程悪い生活では無い。
私が学校から帰ってくると時々この人達を見かける。
刺青を入れていたり、スカーフェイスだったり、チンピラとは一味違う、ヤクザだ。