君がおはようと言ってくれるその時まで

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3:四葉詩音 1話 僕の日常:2021/09/04(土) 08:43

ブーブーッ
携帯のバイブ音がしつこく耳元で鳴り響く。

起きなければいけないことを自覚した僕は、重たいまぶたを半ば強引に開ける。

今も鳴り止まないアラームを止めるべく、自分のスマートフォンへと手を伸ばしすぐに解除ボタンを押す。

ようやく朝の静けさを取り戻すことができたのと同時に安心して力が抜けたせいか、またも強烈な眠気に襲われる。睡魔に負けて2度寝してしまう前にグイッと上体を起こすと、温かい布団を思いっきりはいだ。正直、これが1番堪える。

この時までは夢見心地のままだったけど、制服を着ていく過程ですっかり目が覚める。

銅を磨いたような朝日が窓越しに僕の顔を赤く照らす。とっさにスマホで時間を確認すると時刻は既に5時40分を告げていた。

「えっ、うわぁ……もう40分?」

僕はやってしまったとばかりに片手でおでこを抑えて天井を仰ぐ。
呑気にしてる場合じゃなかった。
なぜなら僕はこれから家族全員分のお弁当を作らなければならないのだ。これから作って、それから犬の散歩に行くとなると、家を出る時間は結構ギリギリになりそうだ。
僕は慌てて部屋から出ると、転がるように階段を駆け下りていく。

カパッと冷蔵庫を開けると、しばらく眺めながら食材の選別をする。
卵焼きを作るのは確定で、野菜も結構あるし野菜炒めでも作ろう。あとは昨夜の晩ご飯で余った唐揚げと、作り置きのきんぴらごぼうで埋め合わせをすればいいかな。

とりあえず5つお弁当箱を取り出し、テーブルに並べていく。そのうち2つの小さなお弁当箱は妹と弟の分だ。

そして、次々と食材を取り出していき、手際よく調理をしていく。

卵液をフライパンに一気に注ぐとジューと勢いよく大きな音を立てる。

それと同時に卵の焼ける香ばしい匂いが僕の食欲をそそる。卵焼きを作るのはもう慣れたものだ。初めはうまく巻けなかったり、焦げたりして苦労したのを覚えている。

そう、しみじみ自分の感じているうちに、あっという間にお弁当を色とりどりのおかずで埋め尽くす。野菜炒めは表面が艶めき、豚肉からはジューシーな肉汁が溢れて美味しそう。昨晩余った白米に、わかめを混ぜ込んだおにぎりも詰めて完成。

「よし」

僕は首を縦に頷いた。
出来に満足した僕は、それぞれに箸をつけて、お弁当を巾着に入れる。
そろそろ弟達を起こしに行くため、寝室に向かおう動いた時だった。突然ダダダダと元気に階段を駆け下がってくる音が聞こえてきた。

「お兄ちゃんおはよー! 」

弟の朝陽(あさひ)が溢れるばかりの笑顔で挨拶してくれる。そんな朝陽の後を追うように妹の陽奈(ひな)がやってくる。

「もう待って、ひなのことおいてかないでよー!」

陽奈は眉を八の字にして悲しそうな顔をしているというのに、一方の朝陽は気づく素振りもなく待ってましたとばかりに、風の速さでテレビの前へ移動する。そして早速テレビをつけ、お決まりのようにテレビの目の前にちょこんと座る。朝陽はちょうどこの時間毎日放送しているアニメがどうやら最近のお気に入りらしい。そばにいる陽奈をよそに、僕はテレビに夢中の朝陽。僕はそんな朝陽をそっと盗み見て、無意識に頬が緩む。

「陽向お兄ちゃんおはよう」

トコトコと小さな足でこちらに駆け寄るとさっきとコロッと表情を変えて笑顔でそう言ってくれる。

「うん、2人ともおはよう。今日は自分で起きたの?」
「うん!そうだよ、偉いでしょ! 」
テレビの前で立ち上がると、朝陽も陽奈の隣にやってくる。
「ひなのことね、あしゃひお兄ちゃん起こしてくれたの!」
「そっかそっか、朝陽が…偉かったな。2人とも偉いよ」

2人のあどけなさに癒されて、自然と頬がほころぶ。
僕は思いっきり2人の頭をわしゃわしゃと撫でると、明らかにご満悦の表情を見せてくれた。
朝陽は5歳で、陽奈はまだ3歳になったばかりだ。陽奈に関しては、たどたどしくも一生懸命何かを覚えたての言葉で伝えようとしてくれるのが嬉しい。この前まであんなに小さかったのに、子供の成長は早いなと実感する。


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