あなたとの出会いに花束を〜シーン2新宿編〜
東京は連日の酷暑日。
敦は、窓の外を眺めた。
日差しの眩しさを見ると、このあと出掛けるのすら躊躇してしまう。
今日は、ハーフパンツにサンダル…とはいかないな…
ぼさぼさの頭をなんとか整えて、パンツにジャケットを羽織り、キャップ…あ、やっぱりハットにしよう。
ストロー素材のジャケットに似合う中折れハット。
そう、
こないだ相方からプレゼントされたそのハットで。
降り立った目的地は、ぞろぞろと人が集まっている。
報道プレスの中に知り合いを見つけると、同じく関係者入り口へと足を進めた。
「今回の初公開映画さ、舞台関係者多いよね。」
知り合いもそんな雰囲気を感じているようだ。
舞台役者出身の初監督作品、映画撮影も初めての役者ばかり、たしか相方も映画は久しぶりだったよな。
身内…いや、相方が映画に出るのはなんだか緊張するね…
久々に見るスクリーンでの相方。
ストーリーのキーパーソンとして出ているからか、かなり台詞も多い。
撮影だった1年ちょっと前、まだこの時の相方は確か…本調子に戻っていなかったはず…
ひと月で体重が10キロ近く落ち、身体も思うように動かないと、ふらつく身体で現場に出ていたのに。
しかし、流石の役者だな…そんな身体の不安なんて1ミリも見せず見事だった。
上映後に始まった舞台挨拶。
役名と同時に壇上に現れる演者達、撮影衣装での登場は、客席から映画の余韻を思わせる良い演出だった。
相方が役名で呼ばれ、登場すると拍手が沸き起こる。
舞台で一礼すると顔をあげた瞬間、観客席にあのハット。
彼はニヤリと口端をあげた。
簡単な自己紹介のあとは、撮影エピソードや裏話トークなどで会場に笑いが沸き起こる。
写真撮影が終わると、締めくくりの挨拶を相方が行った。
「本日は〜」
敦は、挨拶をする相方を見ていると、懐かしい記憶が甦ることがある。
昔、劇団の主役をしていた頃の彼。
いつも冷静で、その挨拶を舞台の後ろから見て、憧れていたあの頃の自分。
あれから40年経っているんだ。
ずっと一緒に…ずっとそばに…
長いな…相変わらずだな…
相方!いや、カッチャン!帰ったらお祝いしなきゃね。
終