しかし、魔人の末裔、ギザギザの民を前にして、臆することなく、矢立は大きく踏み出してきた。
「分かってません!今の先輩は悪人です。殺人なんて許されません。私から逃げないでください。通報しますよ…!」
さっきから、いい人だとか、悪人だとか、未だに人扱いされている事に若干の安堵を抱く自分に、虫唾が走る。
オレは、対峙する矢立に構わず、横を素通りしようと試みるが、
「田舎先輩、逃げるなら通報しますよ!」
「してみろよ」
「いいんですか? ギザギザの民はただでさえ、忌まれる人外。先輩を通報して、事件に発展したら、東京に暮らすギザギザの民への圧政もひどくなりますよ」
「…なぁ、さっきからお前、何がしたいんだ?オレは消えるし、お前やお前の周りの人間に危害は絶対加えない。それでいいだろ。一体、何が望みなんだ?」
「ギザギザの民の先輩に、してほしいことがあります」