読んだ人をときめかせて、幸せな気持ちにする、そんな最高の少女漫画を描く。
それが私の夢――。
「ぎゃぁぁぁ! 遅刻するぅぅぅぅ!」
締切直後の徹夜明け、少し仮眠をとっていたら遅刻寸前だった。
ペン入れしたから手はインクだらけだし髪もボサボサだけどそんなこと気にしてる場合じゃない!
「次遅刻したら廊下掃除させられちゃうぅぅ!」
やたら厳しい担任の顔を思い浮かべると、恐怖からか自然と足も早くなる。
詩河葉凜(うたがわ はりん)、高校1年生。
2年前に少女漫画雑誌"ミックスベリー"でとしてデビューを果たし、現在は連載を掴み取った少女漫画家だ。
漫画家と学校生活の両立は忙しく、これまでも遅刻ギリギリだったり早退したりが多いから学校からは目をつけられている。
知り合いに読まれるのが恥ずかしいから、先生にも友達にも内緒にしてるんだけどね。
そんなこんなでギリギリ滑り込みセーフで教室に入ると、私の机の周りが女子に囲まれザワついていた。
ということは……。
「湯崎熾央(ゆざき しおう)……登校日か」
私の隣の席の男子は高校生ながら今をときめく人気モデルで、最近はCMやドラマになんかもちょくちょく出演している。
爽やかなスマイルが売りの王子系男子。
出席日数死守の為に週に何回か登校するので、その時は女子が騒ぐから分かりやすい。
「熾央くーん!」
「CM見たよ! すごくかっこよかった〜」
もう入学してから一ヶ月は経つけど、よくもまぁ飽きずに騒げるもんだ。
とかいう私も湯崎君の出てるCMはついつい見ちゃったりする。
「ありがとう。撮影頑張ったから、そう言ってくれて嬉しいよ」
湯崎君は柔らかい笑みで模範解答を述べた。
すごい破壊力を持つスマイルだ、今度少女漫画の参考にしよう……。
「あの……座ってもいい?」
ご覧の通り隣がこんな有名人なので、私の席もあってないようなものだ。
徹夜明けでボサボサの私と正反対の、きっちり髪をカールさせた女子に席を陣取られていた。
「あーごめんごめん」
その子はシラケたような声色でそう言うと、椅子を蹴るようにして立ち去って行った。
ちくしょー、私だって一応ちょーーっと有名な少女漫画家で――!
ダメだ、まだ2作品しか連載を持っていないデビュー上がりの私と、全国放送で名が知れ渡っている湯崎君とじゃ全然立場が違う。
私だってちやほやされたくて漫画家になったわけじゃないけど、すぐ隣に同い年で桁違いの有名人がいるとやっぱ嫉妬して落ち込んじゃうな……。