打ち合わせ終了後、フワフワした足取りで出口へ向かう。
これから詳細が決まったらちょくちょく打ち合わせが忙しくなるらしいし、早く帰って原稿を進めなきゃ。
――と思っていると。
「少女漫画原作かよ。内容薄っぺらそー」
「まぁまぁ、少女漫画原作の恋愛ドラマは俳優の登竜門だし……」
休憩室近くの自販機の前から不機嫌そうな声と、それを宥めるマネージャーらしき男性の声がした。
少女漫画をバカにする男の気配!
こっそり覗くと、そこにいたのは――。
「湯崎熾央……!」
長椅子に足を放り出してブスッとしているのは、紛れもなく爽やか王子代表の湯崎君だ。
そういえば私の少女漫画誌と湯崎君の掲載雑誌は同じ出版社だから、鉢合わせる可能性は充分あったんだ……。
「なんで俺が女の都合のいい妄想ドラマをやんなくちゃなんねーんだよ。断れねぇの?」
「でもメインキャストなので知名度は上がりますよ! 今まで脇役ばかりでしたし……」
「はー? だったらずっと脇役のがマシ。俺俳優になりたいわけじゃねーし」
学校での態度とは打って変わって、裏ではこんな性格だったのか湯崎熾央!
イメージ商売だから仕方ないとはいえ、少女漫画をバカにするのは許せない!
人には好き嫌いあって当然だけど、なにもそうやって貶すことないじゃん!
「おい、お前!」
気がつけば私は、穴を開けた紙袋を被って物陰から飛び出していた。
「うわっ、なんだこの紙袋女!?」
「……え、誰ですか!?」
2人とも瞳孔を開き、肩を震わせている。
「しょっ、少女漫画を馬鹿にするな! 全国の乙女達に夢と希望を与えてきた少女漫画を!」
勢いでスクールバッグから普段持ち歩いているビター&ヒロインの1巻を取り出すと、湯崎君に投げつける。
「は? なんだこれ!? ビター&ヒロイン……?!」
「それでも読んで頭冷やせ!」
頭が冷えたのは、私の方だった。
衝動に駆られて飛び出しちゃったけど、かんっぜんに不審者だこれ……。
ていうか恥ずかしすぎる、顔が熱い。
「そういうことだからっ!」
私はそう言い捨てると、逃げるようにしてその場を立ち去った。
「あの制服は……」
とにかく逃げることに必死だった私に、湯崎君の呟きなど耳にも入っていなかった。