『君ってクッキーみたいだよね。』
目の前の少女は、なんとなくそう言った。
よく意味がわからなかった。から理由を聞いた。
「なんていうか、型が無いと何もできない感じが似てるなって。」
まだよく意味がわからなかった。から詳細を聞いた。
「だから、こういう時はこうするって決まってるっていうか……要するに決まったこと以外できないってこと」
何となく理解できた。
けど腑に落ちなかった。私はそんな人間ではないと思った。から反論した。
「うーん……じゃあネコの絵、描いてみて。」
そう言って彼女は紙とペンを渡してきた。
紙を置いて、ペンを持つ。
ネコの絵を描けと言われた。から描いた。
「じゃあ次もネコ描いて。ただし、いつもと違う感じでね。」
ネコの絵を描けと言われた。けどいつもと違う感じで……いつもと違う……から……
…………。
「……やっぱり。君は『いつも』以外のことはできない。『いつも』という型で決められた事しかできないんだよ。」
しばしの沈黙を破るように、彼女はそう言った。
認めたくはなかった。
でも事実だった。
図星だった。から渋々頷いた。
「……それもいつも図星だったら頷くから頷いたんでしょ?」
また図星だった。から渋々頷いた。
「ほら、やっぱりクッキーだ!型通りの形でしか行動できないんだよ!人間なのにクッキーなんだよ!」
そう言って彼女はコロコロ笑う。から腹を立てた。
「まぁまぁ、そう怒らないでよ。確かに君はクッキーみたいだ。でも確かに人間だ。人間なら、型無しの製作法ぐらい見つけれるかもよ。」
彼女はさも当たり前のようにそう言った。
でも私からしたらあまりにぶっ飛んだ話だった。
型無しの製作法。そんなこと考えたことがなかった。
だってクッキーは型が無いと作れない。
型に形を切り取られて、そこから生まれるのに。
どうやって形を作ればいいのか分からない。からその方法を聞いた。
「それは君が、自分で見つけるんだよ。まぁその製作法を見つけるためにその製作法を実行しなきゃなんないんだけど。」
製作法を見つけるために製作法を実行しなければならない。でも分からないことはできない。
そんなの無茶すぎる。から不可能だと言った。
「最初は誰も分からない。誰もその製作法を知らないんだ。でも誰かが探して、努力と偶然が重なって見つかったものが今『製作法』として確立されている。方法は、無知から努力して、そして偶然見つかるんだよ。」
なんとなく、彼女は製作法を知っているんだろうと思った。
彼女は私の知らないことを知っている。
私の無知を知っている。
彼女は一体何、なんだろうか。
「君では見つけられない何かも、君なら見つけられると信じているよ。」
彼女はそう微笑んだ。風が吹いて、思わず目を瞑った。そして目を開けると彼女は消えていた。まるで見えなくなったかのように消えていた。
思い出した。からため息をついた。
まだ私は彼女に会えていない。
見つけることができていない。
からまだ私はクッキーだ。