「まず、私が想定しているルートは2つ」
紅羽は指を二本立てた。
「1つ目は、姐さんが稲川さんとくっついて、私の未来における生成フラグを折る」
「······く、くっつく······」
「2つ目は、転校するか自分の身体を全力で守るかして、稲川さんにサンプルを回収されるのを防ぐ。これも私の生成フラグを折ることになりますね」
「ちょっと疑問があるんだけど」
思わず私は手を挙げていた。紅羽は教師にでもなったつもりなのか、謎のノリで私の質問に応じる。
「はい何でしょう紅葉さん」
「生成フラグを折ることは分かったけど······そうしたら紅羽はどうなるの?」
「あー、それですか。パラドックスの説によると、多分私は······どうなるんでしょう。都合のいい何かによって合理的な意味付けをされるんじゃないですかね」
曖昧である。しかも国語の評論文に出てきそうな表現方法を使わないで欲しい。······まあ、ドラえもんのセワシを思い浮かべればいいのだろうか。
「そっか······」
「でもクローンに関してはそれも適用されるかどうか。『最初からいなかったことにされる』か、本来私が生成されるはずの年に到達したあたりで『最初からいなかったことにされる』かもしれません。というかそれが濃厚です」
「······」
もはや黙るしかなかった。
私のクローンとはいえ、紅羽は生きているのである。そんな『生命』を、高確率で根本から消し去るような行為には、何となく抵抗があった。
「どうすればいいのかなぁ······」
「姐さんそればっかり言ってません······?」
「分からないんだよ。そもそも紅羽······消えるかもなんでしょ?大丈夫なの?」
「それは────」
私には紅羽がどこか適当に物事を進めているように見える。少し問い詰めてみたら、案の定目を泳がせて······しばらく黙られた。
「······だから、私は······どうすればいいか迷ってるんだよ。紅羽が私のクローンなら、······理解してくれるよね?」
自分でも何を言っているのか半ば不明瞭だったが、紅羽は私の言葉に対して頷いてくれた。
もう少し彼女から、未来で何があったのか聞いておくことにしよう。