泥濘んだ道に独特な模様を描く大量の雨粒。そんな光景に似つかわしい青年が一人、膝から下を泥まみれにさせながら傘も指さずに駆けていた。
午後の天気予報が見事に外れ、この始末である。気分も最悪だが、リュックの中身も最悪なことになっているだろう。
タッタッタッタ
5分ほど経ったころだろうか、やっとの思いで目的地であるバス停に着くと
「はぁぁ」
と大きな息を吐く。停留所の小屋に入り雨で真っ黒に黒ずんだリュックを前に背負い直す、そして色の褪せるベンチに腰掛けた。
雨水をたっぷりと吸収したであろう重たい前髪を片手で掻き上げ、錆びついたトタンの屋根から顔を覗かせる空を見上げる。体はとても冷たく、服もぐしょぐしょだ。
「頼むから風邪引かないくれよ……」
弱々しく呟く。
それから視線は自然とどんよりとした空からリュックに落ち、横にぶら下がるお守り袋に顔を向けた。
濡れてしまった──。
ボロボロでみすぼらしい見た目だが、自分にとってはとても大切なものなのだ。なのに濡らしてしまった……というなにか喪失感に似たものを感じる。
(神様が怒る、か……)
昔祖父が言っていた言葉を思いだした。
お守りは適当な扱いをしてはいけない、一歩間違えると悪い存在になってしまうよ、と。
罰当たりなことをしたのには変わりない、(帰ったらしっかりと乾燥させよう。)とくしゃみを堪えながら思うのであった。