新しい学校はどんなところだろう……。あれこれ想像すると止まらなくなり、ワクワクした。
「静岡から引っ越してきた橘杏璃です!特技は大食いです!よろしくお願いします!」
そう言って頭を下げると、拍手が……いや、笑い声が聞こえてきた。
「ねぇ今の聞いた?特技大食いだって!」
「え~何それヤバ」
「誰それ大食いタレント~?」
「なわけないじゃんただの平凡なひ・と!」
う……わたしは一瞬ひるみそうになったけど、すぐに気を取り直してこう言った。
「人のことを笑うのはよくないと思います!」
はっきりとした声でそう言うと、今度はクラス全体がざわついた。
なんで?なんかわたし間違ったこといってる?わたしの頭のなかにははてながいっぱいだった。
担任の佐藤先生が気まずそうに言った。
「と、取りあえず席につこうか。」
隣の席は、谷口美和という人で、その人が焦ったように
「あ、よろしくね。」
と棒読みで言った。美和の後ろでは、朝倉麻希…麻希が隣の人としゃべりながらも、
美和の背中をにらんでいる気がする。
「ねぇ美和、麻希となんかあったの?」
ストレートなわたしの質問に、二人はひいたらしい。
「……」
ひたすら沈黙が続く。そして、二人は教室の後ろへと去っていった。
わたしが
「ねぇ待って~友達でしょ?」
と言って追いかけると、まるでゴキブリを見下ろすかのような冷たい顔をして麻希が
ヒステリックな声をあげた。
「何言ってるの?友達って……なにそれ!?勝手に決めないでくれる!」
杏璃の頭にはまたしてもはてなが浮かんだ。まぁいいや。いずれ友達になればいいのだから。
わたしはまた二人を追いかけた。二人は教室の後ろの方にいる、晴野千秋…千秋と
三角形をつくって何やら話をしている。
「わたしもいっーれて!」
また麻希に排除されると思ったけど、今度はされなかった。代わりに千秋が優しく包む混むような声で
「いいよ。今ちょうど杏璃ちゃんの話をしていたところなの。」
と言った。わたしは心のなかで小さくガッツポーズをした。この子とは絶対親友になれる!
「なになに~?わたしの話って。」
それから嫌がらせをされることも排除されることもなく平和な休み時間が続いた。
やがてお昼休みになった。誰と弁当を食べよっかな……と辺りを見渡していると、千秋が
「あーんり!一緒に弁当食べよ?」
と誘ってくれた。やっぱりわたしの直感は間違っていなかった。
わたしはほっと胸を撫で下ろした。
でも、お昼休みは平和には終わらなかったのだ。
お弁当を見せびらかそうと、わたしがみんなの前でじゃじゃーん!っと弁当箱を開けると、
千秋までもがあきれた顔でわたしのお弁当箱を見下していた。
一瞬わたしにはわたしの弁当の何がそんなにあきれるのか、わからなかった。
でも、わからなくてもよかった。すぐに麻希がこう言ったから。
「うわ何これまっ茶色じゃん~」
わたしはハッとした。みんなの弁当は、
キャラ弁だったり、デパ地下のお総菜が入った豪華な弁当だったりと、
すごく色鮮やかだった。わたしはすぐにごまかそうと
「お母さんがつくってるからさ……」
と言う前に、麻希からはっきりとこう言われた。
「ねぇ、杏璃。ずっと思ってたんだけどさ、杏璃とうちらやっぱりあれだわ。
なんていうの。合わないっていうか……。とりあえず、やっぱりうちらはうちらだけだわ。」
そう言うと何も言わない千秋と美和の手を取り、去っていった。
わたしはずっとそこに立ち尽くしていた。
「ねぇ、杏璃。ずっと思ってたんだけどさ、杏璃とうちらやっぱりあれだわ。
なんていうの。合わないっていうか……。とりあえず、やっぱりうちらはうちらだけだわ。」
頭のなかで麻希の声が再生される。絶望のどん底に落とされたようだった。
目の前が墨のように真っ暗になった。そして目に込み上げてくる涙を必死に我慢して
教室に行くことを決意した。まだお昼休みだから、人はいた。でももうわたしには
目線なんて関係なかった。だって、目がぼやけすぎで見えないから。