思い付きで色々書いてみます

葉っぱ天国 > 小説 > スレ一覧
1:ひとり:2025/03/30(日) 15:58

"人形師"

 私はとても醜い。十四の歳の私の顔には出来物が酷く膿んでいる。そればかりか痩せ細った貧相な体躯おまけに毎朝綺麗に梳かした髪は、この顔と体つきのお陰でかえって滑稽に思えてくる。
「ああ、いっそのこと消えてしまいたい」
 私は、太陽の下、朝を迎える度に感じてしまう。
昼が虚しく窓の外を過ぎる度に、ほんの僅かですが、私は嬉々するのです。

 私はとても醜い。きっと私のような女は、恋を知ることもなく、他人に嘲り嗤われて何処か知れない小さな片田舎で生涯を閉じて逝くのでしょう。
最近私の前に、一人の、それは々素敵な男性が、醜い私を不憫に思うて優しい慰めの言葉をかけては、あんみつをご馳走してくれるのです。
 時にその才徳ある男と、あろうことかこの私が睦言を交わしては目と目を瞑り、互いに体を知り合うのです。
煙草をくゆらせながら男は「吸ってごらんよ」と、私に薦めるけど私は当然、煙を片手で振り払う動作を見せながらわざとらしく咳き込んでは「体に悪いわよ」なんて、にやけた面でこの瞬間を存分に噛み締めていた。
 しかしその君子は、隣家の口うるさい年増女の金切り声や赤児の叫び声によって何処か遠くへ消えてしまいます。ほんのりと黄金色や桃色した色とりどりの夢は、瞬く間もなく私の頭から姿を隠し、哀れで不幸な私は吾(じぶん)に癇癪起こしては疲れ果て午睡(ひるね)にふけり、夢の続きを胸に抱きながら夜を待ちます。

 私はとても美しい。この頃の私は、それはふた月遅れではあるものの、掲載誌の表紙を飾る女共より髪艶もよく唇はほんのりと紅くぽってりとして目鼻立ちも凛々しいのだ。
世間の女の姿形をすっかり忘れさせてしまう私は、ある一つの出来事を思いついた。吾れの姿とは全く相違な女を主題とした物語を文壇に発表してはどうだ。

 その物語は何より儚く、何より美しく、まるでマクベスの表裏を指す文句のような。崇高で甘美なお話であった。


全部 次100> キーワード
名前 メモ