静かな校舎内を進む。授業中なのか生徒の姿は見えない。靴箱に靴をしまい履きなれない上履きを床に叩きつける。
いつ頃から高校に寄りつかなくなっただろうか。上履きも踵が潰れているのを除けば新品のように綺麗だ。
やけに軽い鞄とともに階段をあがる。慣れないこの学校特有の匂い。毎日通えば慣れていくものなのか。そんなことで慣れるくらいなら慣れなくてもいい。
慣れというのは恐ろしい。きっと生きていく上で一番してはいけないものだろう。
だらだらと教室まで向かう。微かに聴こえる教師の声と黒板を叩くチョークの音。
後ろの扉を開けばさっきまで廊下で聴こえていた音がぴたりと止んだ。いつものことだと自分の席だけを見つめた。
窓際の一番後ろの席だけが俺に与えられた場所。いや、俺に残された場所かもしれない。ため息を吐きながら席につく。
みんなの視線を受けていたのも数秒のことで再び教師の棒読みの声と黒板を叩くチョークの音が響き始めた。
数分も経たないうちにチャイムが鳴りその瞬間、教室内が騒がしくなる。
「あれー、藤宮いつ来たよ」
ふいに後ろから投げかけられた少し低めの声。