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電話の声が聞こえる。
「そうなのよぉ、ねぇ、あんなに真面目な子だったのに……」
(真面目、かぁ)
真結は「あの日」を思い出していた。夏休みの前日のことを。
キーンコーンカーンコーン。
「これから、生徒朝会を始めます。気をつけ、礼」
全校生徒がぴったりと動きを合わせるのが真結は嫌いだった。
「生徒会長のお話です」
お願いします、と促されて真結は壇上に上がる。
今日は、ついにあのことを話すと決めたのだ。
「みなさん、おはようございます。今日で学校が終わりですね。夏休みは
ガンガン遊んで勉強して楽しい思い出を創って下さい。では、私から、
もう一つ話があります。私は、今日で学生をやめます」
ずっと迷っていた。でも、節目の日の今日がふさわしいと思ってのことだ。
ざわざわと体育館が騒がしくなる。でも、もう関係ないことだ。
「今までお世話になりました。さようなら」
真結は体育館を出て行った。
みな、あれは冗談だと思っていた。
夏休みが明ければ来ると。
しかし、真結は来なかった。
親が呼んでも、部屋に鍵をかけ、誰も寄せ付けなかった。
それ以来、真結は食事時すら家族と顔を合わせなくなった。