そのいち【桜】
「桜が綺麗ですね」
私立美野風高等学校の制服を着た少女…『秋風真帆(あきかぜまほ)』が俺に話し掛けていた。
真帆は俺、『加藤尚人(かとうなおと)』の友人。
「それは桜じゃなくて月じゃねーの?」
「良いんですよ、これで。自然と言うのは美しいものです」
にーっ、と笑みを浮かべた真帆。
中学からの付き合いなのだが、未だに真帆は敬語がとれない。
同い年なのに、違和感がある。
今日から美野風高校の2年生になる俺ら。
真帆は茶色い髪を黒いヘアゴムで縛りながら、何かを思い出したようで『そういえば』と呟いた。
「今日、転校生が来るらしいですよ」
『転校生』
この三つの漢字の並びで、生徒たちは色んな妄想を掻き立てる。
転校生が男子ならば、わいわいとばか騒ぎをしたり。
女子ならば、恋愛フラグを立ててあんなことやこんなことをしたりと…
可愛いのか、不細工なのか。
イケメンなのか、ブサメンなのか。
顔のパーツの位置で、扱いが決まってしまうこともあるので転校生もドキドキ、俺らもドキドキ。
転校生の事を考えているうちに、高校についていた。