魔法が使えるようになったら、君の願い事はなんでも叶うだろう。それこそ、嫌いな村人を殺すことだってね。
マリアの小さな手をとって、目の前の黒いやつは言った。
ごうごうと風がふき、その風は周りの木々を倒さんばかりに揺らす。どこからか、パキリと音がして、小枝がマリアの前に落ちた。
その小枝を、空いている方の手で掴む。
マリアの手をとっている、黒くて大きなもじゃもじゃした手に、容赦なく小枝を突き刺すと、黒いやつは悲鳴ではなく、笑い声をあげた。
「さすがだ、さすが我が見込んだだけはある!お前は素晴らしい!さあ、我と契約しようではないか!」
そんなの勘弁。
だって、『けいやく』は国王様がやることだもの。マリアみたいな子供はしちゃいけないのよ。
そんなことも知らないの?
マリアは手を振り払って、村に向かって走り出した。
第一、あいつはマリアが村人を嫌いだと言うけれど、マリアは村人が大好きだ。
例えば村長のアポカリス。あの人は、マリアに遊びを教えてくれた。
隣の家のエリャアーチェもそう。一緒に遊んでくれるし、最近では足し算というものを教えてもらった。
みんな大事な人達。嫌いになんてなれない。ひとつの村で、ひとつの家族。それを知らないなんて可哀想な人ね。
森を抜けても、まだ声は聞こえる。
マリアは耳を塞ぎたかったけど、耳を塞いだら振る腕が無くなっちゃうから無理。
声は低くて、獣みたい。そう、威嚇してる狼みたいな。
マリアは棒になりそうな足を励ましながら走った。
「ああ、そうとも、村へと帰るがいい!だがしかし、お前の還る家など、もうどこにもないがなああァ!」
「……ママ?……パパ?……ママ、パパ、ねぇ、ねぇ、どうしたの、ねぇッ!?」
マリアの泣きじゃくる声が、崩れかけの家にこだます。
誰がこんな酷いことをしたかは、もう見当がついていた。けど、そいつに復讐してこないのは、まだその力がないから。
力が欲しい。復讐がしたい。でも、どうすればいいか分からない。
分からないなんて………そのためなら、どんな恐ろしいことだってしてみせるのに!
マリアの背後で、またあの笑い声が聞こえた。