『タルパ』
「タルパ?なんそれ」
背を丸めて読書に耽っていた君は、唐突な私の言葉に反応するように、気怠そうな視線を虚空に移し言った。
全く君の横顔は美しくて困る。
「チベット密教に伝わる秘奥義だよ。「無」から霊体を人為的に作り出す術なんだけれどもね」
「あはは、なんじゃそりゃ」
君は目を細め、涼しげで整ったその顔を綻ばせた。血色のいい君の頬は、窓から射し込む光に照らされて、静かな輝きを帯びて見える。
もし君に触れられたら、君はきっとやわらかくて暖かいのだろうなあ。
「もう、笑い事じゃないよ!結構危ない術なんだよ?素人が何も知らずうっかり作ってしまった霊が、暴走を起こして術者をそのまま祟りころしてしまう事例もあってだね」
「はいはい。相変わらず君はそういうのが好きだねえ」
そう。私は好きなんだ。君のことが。
だからこそ、私は君に言わねばならない。
君への愛が止まらなくなる前に。
私が君を祟る悪霊に変わってしまう前に。
>>2は語り手がタルパで呼び出された霊で、語り手の言う「君」はそのことに気が付いてないって設定なんだけど分かりにくいだろうか(白目)