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「サボってすみませんでした!」
放課後、第二体育館の近くを通りかかった俺の耳に聞き慣れた声が届いた。
練習に参加させてください、と続けるその声の主は縁下力。
クラスは違うけど数日前までは同じ部活に所属していたし、名前も顔も特徴的だったからよく覚えている。
そうか、あいつは戻るのか。
ぼんやりとしながら足を止める俺の前を縁下が駆ける。
「あ――」
縁下は足を止めて俺を見ると、名前を呼んだ。
練習中に出すのとは違う穏やかで聞き心地のいい声。
「戻るなら着替えていけよ」
縁下はそれだけ言って去っていく。
その後ろ姿は、バレー部から逃げていた時より頼もしく見えた。
強要してこないところが縁下らしくて、俺の涙腺は僅かに弛んだ。
しかし、足の爪先は体育館の方を向かなかった。
ごめん、縁下。
声かけてくれたのに応じることができなくて。
俺はお前みたいに強くないんだ。
「おせーよ」
校門を出れば、友人の姿があった。
俺は作り笑いを浮かべて軽い口調で謝り、烏野高校から遠ざかった。