ぴちゃん
……ん。
『……どこや、ここ』
上から何か水滴が落ちてきて、その冷たさに目を覚ました。目線だけ動かしてみると、辺りは暗い。
そして上を見上げると……
『……誰やねん』
全身がぐっしょり濡れている黒髪つり目のイケメンが居ました。イケメンはこっちが起きたことに目を見開いて「起きた!」と声をあげる。え、えぇ……この声とこの顔は……。
『……高尾、和成……?』
かの有名なバスケ漫画(完結済み)、黒子のバスケの主人公の大勢のライバルの一人、秀徳高校一年生高尾和成だった。
高尾は「えぇっ!? なんで俺のこと知ってんの!?」と驚愕の声をあげる。こっちはなんでここにキャラクターが居るんか聞きたいわ。
とりあえず、高尾の質問に答えておく。
『……やって……、君……漫画の登場人物やし……』
「えええええ!?」
んな大袈裟な。高尾は目を再び見開いて吃驚するくらい大きな声をあげる。だが、「そっかー、俺漫画の登場人物なのかー。なら名前知ってんのも納得!」とかるーく受け流した。えぇ……。
『……君さ、疑ったりせぇへんの……? 嘘言うとんのやない、とか』
「えー、だって君の顔見ると「え、嘘だろなんでこんなところに」的な顔してっから!」
『えぇ……』
高尾のコミュ力には驚かされる。とりあえずけらけら笑う高尾を放り、辺りを見回す。
薄暗く廊下に座り込むこっちら、肩から掛かるこっちのエナメルバッグ。びしょ濡れの高尾。横を見れば教室が並んでおり、ここはどうやら廃校のようだ。うーん、こえぇ。
すると高尾が「赤司ー! 倒れてた女の子が目を覚ましたぜー!」と声を張り上げた。え、うっそ……赤司おるん? とか考えているうちに、「そうか」と曲がり角の奥から赤司が出てきた。あ、前髪長いしオッドアイじゃないから俺司だ。
『……赤司征十郎やん……』
「やっぱり知ってんのか!」
『……知っとるも、何も……赤司は成績優秀容姿端麗運動神経抜群、産まれてから一度も負けたことがない天才。赤司財閥御曹司で、帝光中学バスケットボール部キセキの世代キャプテン、現在洛山高校一年生でバスケットボール部キャプテン……やったかな』
「すっげぇ! 当たってる!」
こっちがすらすら赤司の事を告げると、赤司の眉間に皺がより、高尾がゲラゲラ笑い出す。高尾、笑いの沸点低すぎや。
「……なんでそんなに俺達の事を知っているんだ」
赤司が鋭い目付きで睨まれるが、理由が無いので飄々と答えてあげた。
『……やって君ら、漫画の登場人物やし』
「証拠が無いな。お前がここに連れてきたんじゃないのか?」
『いや、ちゃうし。こっちかてここがどこか知らんし。
それに、証拠なら有るで』
そう言ってこっちはエナメルバッグを漁った。あ、あった。キャラブック!
ごそごそとエナメルバッグから取り出し、「ん、証拠や」と赤司に差し出した。エナメルバッグには漫画全巻入ってますよ。
それを見た赤司は目を見開いた。
「なんだ、これは……」
『藤巻先生の漫画や。週刊少年ジャンプで連載しとった大人気作品。
グッズやアニメもあって、舞台化もする。
漫画も全巻あんで』
こっちはエナメルバッグについていたキャラクターラバーストラップを赤司に見せた。
「……どうやら本物らしいな」
『確信的証拠、信じてくれたらエエわ。っちゅーか、ここ、どこ』
こっちが辺りを見回しながら告げると、「どうやら中学校の様だ」と告げられる。ふーんと相槌を打つと、高尾が口を開く。
「っていうかさ、俺達君の名前知んないんだけど」
……名前を教えてなかったことに今気がついた。