僕は昔から数学と理科が得意だった。いつでもその2つだけは学年1位。兄は理系が嫌いだったから、兄に勝てる唯一の部分で僕はとても嬉しかったんだ。でも、その代わり、国語が苦手だった。ある日。個性溢れる兄と比べて、何の取り柄もない無個性な僕にもその宿題は出されてしまった。
「将来の夢」。作文を書くために僕は自分の夢を考えた。幾つかの候補は出た。学校の先生、サッカー選手、消防隊員。この中で先生が一番気に入りそうなのを選んでみた。正しいのはどれか……。その結果、僕は「学校の先生なりたい」と発表して、先生に褒められた。国語が苦手な僕にとっては嬉しいことだった。過不足ない、不自由ないそんな世の中。言葉にすれば褒めてくれる先生がいて、少なからず悪いことをすれば叱ってくれる人もいる。そんな作文を書いてた頃、僕はは「勉強しなさい」だの「ゲームは1日30分」だの言われる前にそんな決まりを守れる良い子くんだったから、何ひとつ不自由なんてなかった。でも、どうしてだろう?こんな作文。心ないことを書いとけば正解のはずなのに。結局どれも不正解な気がしてならなかった。あの時、僕は自分の「夢」をなんて表せば良かったんだろう?