あたしは今日も校内をふらつく。美術部は基本共同作品以外は自由参加なので、途中でふらついても怒られない。絵を描くのは好きだし、ふらつくのも好き。女の子も好き。
現在青城の男子制服を身に纏うあたしの胸はぺったんこ、もちろんサラシを巻いております。
『ん?』
前方、何かを発見。目標に近づきます。静かな青葉城西の校内でジャージを着た女の子を発見。靴下はあの有名なバレーの柄が刺繍されており、バレー部と推測する。青葉城西のジャージは男女共に白地に水色のラインなので他校生と伺える。及川が確か今日は他校と練習試合と言っていた気がするので、恐らくマネージャー。
そんな彼女は今、困っていた。
もちろんその場にいるのは彼女だけではない。もう一人、男子。彼女が壁に背を預けている壁、そこに手をつく男子。もちろん壁ドンである。
彼女に壁ドンしているのは男子サッカー部の藤井君である。藤井はサッカーの実力もあり顔も良いのだが、女遊びで有名である。良い噂は聞かない。
見るからに女の子の方が困っているので、あたしは助けにいくことにした。
『ハイそこまで。おら藤井、女の子困ってんだろ』
藤井と女の子の間に割って入る。藤井は「げっ! 赤嶺!」と顔を歪ませた。実は以前も女の子は違うが、こんなことがあったのである。その時は女の子に先にどこかで待ってもらって打ちのめしたのだが、懲りていないようだ。
『おいおい藤井、まだ懲りてねぇの』
「うっせ! お前には関係ねえ!」
『もっかいいてぇ目見てーの?』
自分より身長のデカイヤツに凄まれ、藤井は舌打ちをしながら去っていった。全く根性のないやつである。
くるりと振り返り、笑みを浮かべながら『大丈夫?』と女の子に声を掛ける。
こくんと頷いた真っ黒なジャージを着る女の子は眼鏡に口元のほくろと美人さんだ。
「……ありがと」
『いやいや、どういたしまして。所でどうしたの? こんなところで』
「……道に迷っちゃったの。体育館に戻りたいんだけど」
『ああ、その途中で絡まれたって訳ね。もしよければ案内するよ』
「ありがとう」
『赤嶺梅樹、よろしく』
「……清水潔子、よろしく」
人当たりの良い笑顔を浮かべ、潔子ちゃんの背中に腕を回す。エスコートをしながらあたしたちはここから正反対の体育館へと向かった。
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