……ぴぴぴぴ、ぴぴぴぴ……
まだ外は薄暗く、家の中の音は一切しない。ただ、部屋の主であるハツの寝息だけが聞こえていたその部屋に機械の甲高い音が響く。青い時計から発せられるその音はまだ眠っていたい人間ならば誰しもが不快になる音で、それはボタンを押さないと止められないという迷惑な仕様付き。未だ目覚めぬハツを急かすかのように、目覚まし時計の音はさらに大きくなり鳴り響いた。
「……ん、もう朝…」
眠たげに瞼を閉じようとする目を擦りながら、少し呻き声を漏らし思い体を持ち上げる少女は部屋の主のハツだ。ポチ、と時計のボタンを押し音を止めると、溜息をつきベッドから降りて顔を洗いに洗面所へ向かった。
洗面所で冷たい、透明な水を出し顔に思いっきりかけると、冷たい物が顔にかかったお陰で目が冴え、頭がはっきりとしてくる。クシで丁寧に髪を解くと、ハツは鏡の前で思いっきり歯を出して笑ってみた。
…よし、今日も完璧。そんなことを呟いてリビングに向かうと、まだその部屋は寒く、誰もいない。電気をつけ、暖房をいれ、そして台所に立つ。
親、というものをハツは見たことが無い。母親はハツを生んだ時になくなり、父親はその知らせを受けショックで自殺したからだ。まだ物心ついていない時に両親が亡くなったからか、不思議と悲しくはなかった。
フライパンに卵をいれ、焼く。今日は目玉焼きにしよう。なんてなんの変哲もないことを思いながら、ハツは今日も一人分の朝ごはんを作った。