すぐ近くの海の波立つ表面をすべり潮の匂いを運んでくる風が、柔らかく薄いクリーム色のカーテンをめくり上げ部屋にやってくるのを感じるのも、もう十年になる。
ここはあの人が大好きな海の上ではなく陸の上で、こじんまりとした一軒家のリビングだ。現役からおりても海から離れたくないとごねた主人に自分でも珍しく仕方がないわねと海のすぐ近くに家を建てることを許したのは、おそらく自分も心のどこかで海を愛していたのだろう。
あの人が無事夢を叶えてからが黄金期だと世間は言うけど、そんなことはない、あの人はいつだって目立っていて、誰よりも輝くこの世にたった一つしかない宝石のような人だった。
いつかそのことをそのまんま話すと彼は、宝石よりも海のあのキラキラの方が綺麗だろうと言った。まだ自分の恋心にも気づいていなかったあの頃の私は、自分の大好きな物の一つに例えてやったのに、とちょっと怒ってあんなのいつも見れるじゃない、とか、いっつも見てるじゃない、とかそうと答えたんだっけ。
きっと今聞いてもまったく同じ答えを返してくれるのだろう、昔よりは丸くなったとはいえ、似たような反応を返す自分が容易に想像できて少し口角があがった。
「あら、」
後ろからいきなり、しかし優しく抱き締めてくるこの腕はとても見覚えのある腕で、驚いたのと嬉しかったのでどうしたのと理由を聞くと、その腕の持ち主は恥ずかしげもなくしっかりと瞳を見つめて、「笑った顔が綺麗だったから」と言った。
綺麗、綺麗かぁ。
『ねぇルフィ』
『なんだ?』
『あんたってなんだか宝石みたいよね』
『....そうか?』
『でもおれは――――・・・