[1.君が気になってしまうよ]
気が付けば、俺は自転車を押し進めながら、車道を歩いていた。心地よい春風が俺の頬を撫で、目の前には澄んだ青空が広がっている。
建物はなく、ガードレールとだだっ広い草原しかない。
ここは、どこなんだろう。
制服のポケットを探るが、スマホは入ってなかった。学校鞄も見当たらない。
だが、俺は混乱することはなかった。今自分がどこにいるかという疑問よりも、もっと陰鬱な感情を抱いていたからだ。
その正体はわからない。ただ、悲しみとか怒りとか恐怖とか、そんな言葉では済まされないようなものであることは確かだった。
さらに歩を進めると、視界に大きなバリケードが入った。その瞬間、俺の心中にとてつもない絶望感が生まれる。『通行止め』という文字が、やけに憎々しげに見えた。
「逃げられないんだな……」