第一章【ただいま、ごめんね】
ーある日の出来事ー
紅魔館のメイド長の十六夜咲夜が紅魔館主のレミリア・スカーレットの部屋に訪れたときのこと。
「お嬢様、失礼します。」
何時も夕方を過ぎると咲夜はレミリアを起こしにくる。今日もいつものように夜がくることを教えに来ていた。
「お嬢様……起きて…く…だ…」
咲夜は言葉を失った。それは、静かにレミリアが涙を流していたからだ。
「お…ま…様。あ…が…とう。」
掠れた声でそういったあとレミリアはその紅い目を開いた。
「おはようございます、お嬢様………どうしたのですか?」
「え?あれっ?」
咲夜がハンカチでレミリアの涙を拭くとレミリアが不思議そうな声を出した。泣いていたことに気づかなかったのだろう。
「……夢を見たの。久しぶりにあの人の夢を。」
「あの人の夢……?」
「そうね、貴方には話していなかったわね、驚かないでよ。」
レミリアは思い出すように目を閉じて口を開いた。
「私達にはね、お姉様がいるの。」
「………?」
「フフッ、理解していないようね。本当は紅魔館の当主はお姉様だったのだけれど急にいなくなったの。お母様と死と共に…ね。」
「え____」
「殺されてはいないと思う。私のお姉様は吸血鬼でありながら女神の力を持って産まれてきたから。帰ってくるまで私はこの夢を見るでしょう。」
寂しそうにそう言葉を紡いだ。
まさか、『帰ってくるまで』が近づいているのは知らずにね。