「そう?ならいいけど」
翼はそういって笑うと教室を出ていった。
翼がいなくなってシーンとなる教室。
私は机の横にかけてある鞄を持つと教室を出た。
×××
私が靴箱で靴を履いていると突然、誰かから話しかけられた。
「あの…立花さん。」
突然のことに驚く。
そして後ろを向くと、すまなさそうな顔をした女の子がいた。
「…えっと」
「あ、私は佐藤桃夏。3組だから知らないのも無理ないし。」
そういって佐藤さんは笑う。
それにしても、私になんのようだろう。
「私に、なにか用事?」
「あー、うん…」
私が聞くとばつが悪そうに下を向く。
「……あの、立花さんのクラスに安西さんっているでしょ?」
しばらくして、ようやく口を開いた佐藤さんが言う。
「うん、知ってるよ」
知ってるも何も、有名人だし。
派手だしうるさいし、私とは全く違う人種の人だ。
「安西さんと、私同じグループなんだ。
クラスは違うけど。
私がクラスでぼっちなの知ってて一緒にいてくれてるような優しい人なの。」
そう、うっとりしたように言う佐藤さん。
安西さんにもそんな一面があったなんて。
人は見かけによらない、と反省した。
「そうなんだ。
…安西さんがどうかしたの?」
私が訪ねると
「安西さんがね、立花さんに話があるらしいの。
本当は今日、話したかったらしいけど塾で無理らしいから私に伝えといてって。」
私に話したいことってなんだろう。
今日の図書館でのことか。
行きたくないけど、行かないわけにはいかない。
「うん、わかった。いつどこで話すの?」
「あー、それは私も知らないんだ。
ごめんね」
ペコペコと謝る佐藤さんを宥(なだ)め、私は帰り道を急いだ。