4月の初め、桜が舞う校舎で一ノ瀬志希は高校の入学式を迎えた。
普通の女子高生は、新しい環境などに胸を弾ませるこの季節だが……
「つまんなーい」
彼女は、入学式に対して関心は無いようだ。
高校を卒業しないと大学には入れない。だから、一人暮らしをしている自宅から徒歩数分で着くこの学校を選んだだけであって……
彼女は、友達を求めてはいなかった。
……はずだったが。
「ねえねえそこのキミ。つまらない顔してるね。アタシは宮本フレデリカ。よろしくシルブプレ〜」
何故か、志希より先輩のはずのフレデリカが絡んでくる。
だが、志希としてはぶっ飛んだ面白い人物は歓迎だったので、それに答えることにした。
「あたしは一ノ瀬志希……です。よろしく……お願いします」
フレデリカは一応先輩だったので、志希は敬語を使った。
使い慣れてないからか、少し詰まっているが。
「志希ちゃん、よろしく!
あ、タメ口でいいからね〜。アタシは気にしないよ〜」
志希が敬語を使い慣れてないことを察したのか、フレデリカはそう言う。
……察してなくてもタメ口はOKだったかもしれないが。
「それより志希ちゃん。お家帰らないの?」
現在午後の1時。志希は入学式を終えて暇つぶしに屋上に来ていた。おそらく、彼女は昼ご飯も食べてないのだろう。
そこに偶然居たフレデリカが志希に話しかけて、この状況になったが……
流石にそろそろ帰った方が良いのではとフレデリカは思っていた。
「んー、あたし、一人暮らしだし帰るのは後で良いと思ってね〜」
そう返した志希に、フレデリカは「ご飯は?」と尋ねる。
「あー、昼? 別に要らないんじゃないかにゃー。あたしお腹すいてないし」
フレデリカはそこまで聞いて、流石の彼女でも心配になった。
自分より年下の女の子がそんな不安定な生活をしていたのだから。
「流石にお家かえって、ご飯食べた方がいいんじゃないかなー」
フレデリカは、志希にやんわりとそう言った。
フレデリカのその言葉に、志希は「フレデリカちゃんにそう言われたら仕方ないなー」と言って、屋上の出口のドアに手をかける。
フレデリカはそんな志希の姿を、「フレちゃん、でいいよー」と言いながら見送った。
その言葉を聞いて、志希は「分かった。フレちゃん、バイバーイ」と言いながらドアを開けて立ち去る。
フレデリカは、そんな志希を見て、「困ったさんが来たなー」と思った。
その時のフレデリカの顔は、満更でも無かったようだった。