入学式以来の登校日。
志希はつまらなさそうな顔で学校へ行き、教室に入る。
「おはよう!」
「あ、おはよ〜」
志希は、クラスメイトから挨拶されるのに、愛想笑いをしながら返す。
ここで邪険にするとこれからの学校生活が最悪になることは、流石の志希でも分かっていたのだ。
「今から、ホームルームを始めます」
志希は遅刻ギリギリに学校に来たため、鞄の中の教科書を出し終えた頃にはホームルームが始まろうとしていた。
「気を付け、礼!」
「お願いします」
学級委員も決まってなかったので、挨拶は担任の教師……田中がする。
「出席を取ります」
全員が椅子を引いて席に着いた後、田中は出席簿を持ちながらそう言う。
「一ノ瀬さん」
「はーい」
志希は出席番号一番なので、すぐに名前を呼ばれる。
彼女はそっぽを向きながら軽く返事をした。
「……内田さん」
「はい」
田中は志希の態度が良いものとは言えなかったので眉間に皺を寄せたが、特に何も言うことなく次の生徒の名前を呼んだ。
「はい、全員出席ですね」
田中はそう言って、出席簿を置いた。
「10分後、授業が始まります。授業に必要な物の準備、そして、休憩を済ませておいてください」
ホームルームが終わり、田中はそう言って教室から出る。
「ふぁーあ、疲れた」
志希はその背中が完全に見えなくなった時、脱力したようにしてうつ伏せになった。
彼女は睡眠を取り始めたのだ。
そんな志希の様子に、クラスメイト達は苦笑いをする。
その時、教室のドアが思いっきり開いた。
厳しそうな表情をしている教師……大田が入ってくる。
「……起きなさい!」
大田は、誰よりも先に寝ている志希に目を付けた。
「……なに?」
志希は仕方なさそうに起きて、顔を上げる。
「『なに?』ですって? 親の教育を疑いますね。放課後、生徒指導室に来なさい!」
「ええ……」
志希は突然の出来事に困惑したが、渋々受け入れることにした。いや、こちらには落ち度は無いはずだが。
「えー、皆さん、中学校で習ったと思いますが―――」
……めんどくさいことになったなあ。
教科書を開き、何事も無かったかのように授業を始める大田を見て、志希はそう思った。