「シキちゃん、空を飛ぶってどんな感じだろ」
いつものように美しい髪を揺らす彼女が言った。
空を飛ぶ、ね。物理的に飛ぶのか、或いは……なんて無粋な思考を巡らし始めたところで、やめた。シャンデリアに轢かれてハッピーエンドなあたしはあそこで終わったんだ。
「気持ちいいんじゃない」
とは答えたものの、正直あたしにも分かんない。だって空を飛んだことなんてないし。例えあっちであってもね。
そんなあたしの確かではない言葉に、彼女はちょっとだけ腑に落ちないをしたものの、「そっか」と言って話を終わらせた。そうやって切り替えが出来るところは、あたしより大人なのかもしれない。
「もし気持ちいいなら……アタシ、シキちゃんと空飛びたい」
「……ん?」
前言撤回、話は続いていた。
それに、気持ちいいなら空飛びたい? 何を言ってるんだ、この子は。もしかして、おかしくなっちゃったのだろうか。
「……フレちゃん、おかしくなっちゃった?」
「そうかもねー。なんでだろー♪」
本当に、フレちゃんは読めない。……でも、そんな所が面白い。面白くて、あたしは好きだ。この子とならなんだって出来そう。それから、理解できない所へだっていけそうだもの。
「ねえシキちゃん」
「なに、フレちゃん」
「朝になっちゃったね」
窓の外を見る。真っ暗だった空は少しだけ明るくなっていて、ラボの前を通る車の数も増えてきていた。多分、5時くらいだろうか。
「アタシ達、夜更かしさんだね」
「ねー、フレちゃん。お仕事、あったっけ?」
「確かオフだったよー」
そっか。そう言いながら、あたしは彼女の顔を見つめる。
綺麗な緑色の瞳の下には、ちょっとだけクマが出来ていて、フレちゃんらしくない顔だった。こうしたのはあたしか、それとも彼女自身か。そう尋ねれば、彼女はきっと自分がしたと言うだろう。何故なら……とっても優しいから。
「あたし、寝てもいい?」
正直、眠気なんてなかった。なんでこんな事を言ったのか分かんなかった。でも、あたしはいつの間にかそう言っていた。多分、彼女のクマを見るのが嫌だったからだろう。あたしが目をつぶれば見えないし、彼女も寝てくれれば消えるはず。
そんな幼くてバカらしい思考に、あたしは自分でも呆れたくなった。
「いいよー」
その返事を聞いて、あたしは直ぐに目を閉じた。ベッドに移動するのはめんどくさいから、ソファに寝転んで。
目を閉じていたから、その後彼女がどんな行動を起こしたのかは分からない。だけど、目を開けたら身体にはタオルケットが掛けられていて、彼女自身は何故か料理を作っていた。
……やっぱり、フレちゃんって面白いよ。あたしの負け。
しきフレ。キャラ掴めてなかったら虚しい