私の名前は市ヶ谷有咲。
ガールズバンド「Poppin’Party」のキーボード担当。
それはもう私達のことを知っている人にとっては、“あたりまえ”だ。
でも私はまだちゃんと一員として認められていない気がする。
香澄達のノリにもついていけないし、香澄達みたいに情熱的でもない。
もちろん私は本気でやっている。
でもまだ認められていないんじゃないかな、なんて最近思うんだ。
「香澄達は、すごいな」
練習の休憩中、机に突っ伏してぽつりと呟いた言葉を香澄は聞き逃さなかった。
「え、なにがー?」
聞かれていたことなんて気にせず、私はひとりごとのように言う。
「ポピパへの情熱…とか。私にはそれが足りない。
足りないから埋めようとしてもダメなんだ。
…私、ポピパの一員って認められてるのかな」
視線を上に向けると香澄が少し険しい表情になっていた。怒ったような表情。
あぁほら、私はダメなんだ。
ポピパの一員を名乗る資格なんてないんだ。
涙が出そうになる。
なんの涙?
嬉しいの?
悔しいの?
…悲しいの?
自問自答を繰り返してもよくわからない。
「有咲…」
やめて。やめて。やめて。言わないで。お願い。
涙が溢れて止まらなくなるから。やめて。
なんの涙かもわからないのに。
ねえ。やめて。香澄。お願い。やめて。言わないで。
わかってるよ。一員なんかじゃないって。
わかってる。わかってるから言わなくていいよ。
お願い。やだ。やだよ。嫌。やめて。お願いだから。
あぁ、もう。ぐちゃぐちゃになる。
幼稚園児の描いた絵みたいに、クレヨンで描いたみたいにぐちゃぐちゃになる。
なにが?なにがぐちゃぐちゃになるの?
顔が?腕が?お腹が?背中が?足が?違う。違う。
心が。心がぐちゃぐちゃになる。
青がなくなったから黒を足す。
黒もなくなったから赤を足す。
そんなこんなで白い画用紙はぐちゃぐちゃになる。
白い画用紙は私の心。
クレヨンでぐちゃぐちゃになる。