その時は突然だった。予期せぬ事態。そのものだった。目の前が真っ暗だった。
稲田久遠、17歳。名前と母子家庭以外は普通な高校生。よく協調性がない、自由すぎると言われます。
この自由さは自他共に認める母さん譲り。
まあ、母が父と離婚したのは3歳の時で、
それからは父と会ったこともないし、会おうとも思わないから母に似るのは仕方ないことだと思う。
そんなに自由かな…と思いながら家に帰った。部屋にこもり、何時間かスマホをいじっていた時、下から母さんが私を呼んだ。
「久遠ー?夕飯できたよー」
眠くなりつつある体を起こし階段を下ると、
もう食器が全て置いてあったので、スマホをいじるのをやめ、席に着いた。
「今日トンカツ?」
キャベツと一緒にさらに置かれた揚げ物にソースをかけながら聞くと、
「そうそう、お肉安かったの。好きでしょ」
と、いつも通りの明るい声が聞こえた。
「好き」
一言、そう答えた。