*第一話 新しい世界*
―二人の結婚式も終わり、浮わついたアグラバー王国は
少しずつ落ち着きを取り戻し、日常に戻りつつあった。
しかし、宮殿はまだどこか浮わついた空気を感じる。
二人―アラジンとジャスミンは、二人で落ち着きたくて
誰もいない噴水へ向かった。
二人共、気恥ずかしいのか沈黙を貫く。
その沈黙を先に破ったのはアラジンだった。
「―ねぇ、ジャスミン。僕達、結婚したんだよね?何だかまだ夢を見ているようだ」
ぼうっと満月を見つめながら、アラジンは
そう口にした。ジャスミンも同じく、満月を見つめ
「それは私だって同じよ。…貴方に出逢ってから全てが変わったわ」
と言った。
「私はずっと、宮殿から出ることを許されず、友達もいなかった。悩みを話せる相手もね。ラジャーは別だけど」
そう言ったジャスミンの表情は、どこか儚げだった。
月明かりに照らされているせいだろうか。
「僕だってそうさ。家族の温もりを知らずに生きてきた。でも、君と出逢って、たくさんの人に囲まれて、死んだと思ってた父さんにも逢えたんだ!結婚式も見てもらえた」
ジャスミンの目をまっすぐ見て、アラジンは言った。
「アル…私も。貴方に出逢えたから、友達もたくさん出来たの。みんな、貴方と出逢えたおかげよ」
ジャスミンも、アラジンの目をまっすぐ見て言う。
そう、互いに巡りあったことで変わったことが
たくさんあるのだ。
「宮殿で暮らして、豪華な絹の衣を纏い、召し使いに囲まれて、愛するプリンセスと幸せな日々を過ごすのが夢だったんだ。その夢が叶うなんて、思ってなかったよ。君と出逢ってから、幸せの連続だ」
ジャスミンと出逢う前、「ドブネズミ」と罵られ
ボロ屋で暮らしていた時、遠くに見える宮殿を見つめて
相棒の猿、アブーにこう言ったことがある。
"あそこで暮らしてこそ人生だよね、アブー? "と。
そんなアラジンの話を聞いて、ジャスミンは
「アル…愛しているわ」と言ったのだった。
「僕もだよ、ジャスミン…」
キスをしようと、顔を近付け、唇を重ねようとした
その時――
「―オッホン。お二人さん、お楽しみのところ悪いんだけど…王様が呼んでるよ」
陽気な声が響いた。ランプの魔神、ジーニーだ。
二人は顔を真っ赤にして俯いた。
「な、何だよ、ジーニー。いきなり声をかけて…」
そのアラジンの言葉を聞いたジーニーは
チッチッチ…と舌を鳴らす。
「さっきからずっと声をかけてたぜ?なぁ、モンキーちゃん?」
アブーもコクコクと頷く。
「………どこら辺から?」
「アル…愛しているわ辺りから」
ジャスミンの声を真似して、ジーニーが言う。
二人は再び顔を赤くする。
「で?王様の話って?」
「さぁ、とにかく行きましょう。お父様に話を聞きに」
誤魔化すように二人は言い、腕を組んで歩き出す。
ジーニーとアブーはやれやれというように二人の
後に続いた。
【第二話 新たな王国の仲間 へ続く】