入って来たのは中くらいの背の男子。
目元にどこか優しげがあり、農家の人のような暖かい雰囲気がある。
彼はゆっくりと歩き、壇上の人になる。
そしてペコリと礼をすると、礼儀の正しい姿勢になった。
その仕草は、あまりに普通過ぎて拍子抜けしてしまう。
あの悩みは杞憂だったのだろうか。
いや寧ろ、これが普通なのだ。
この教室にいる郷土愛が異常なグンマ人や、トチギやニイガタからスパイとしてやってくる人間の方が寧ろおかしいのだ。
そう考え、神月はホッと息をつく。
先生「それでは、名前を言ってもらいましょう。では。」
そうだ、名前を聞いていなかった。
新たなクラスメートはどんな名前なのか。
やっぱり、見た目通りの普通の名前だろう。
??「はい。…僕は静岡から来た」
すぅ、と軽く息を吸ってから彼は名前を言う。
「新駿河 富岳です」
神月の望みは潰えた。