Chapter1:ATM-09-ST
そこは半ば自然に飲まれつつある廃墟都市。巨大なイノシシやヘラジカが、文明の痕跡を尻目に悠然と闊歩している中を、二人の人影が歩みを進めている。
……"人影"と呼ぶのは正確ではない。二人の姿は美しき少年と少女のそれだが、その肉体は冷たい鋼鉄と柔らかな樹脂にて、彼らの主に似せて象られたアンドロイドなのだ。
少女はヨルハ二号B型、少年はヨルハ九号S型という名を与えられている。
「仕方ないとはいえ、アネモネさんも人遣いが荒くなってきた気がしますねえ、2B?」
「ナインズ、文句を言わない。私達でなければ手に負えないことかもしれない。」
「はーい。それにしても、未確認物体なんて曖昧な情報ですね。僕たちも近付いて大丈夫なんでしょうか……?」
「行けばわかるよ。多分。」
「……2B、何だか前にも増して大雑把に……。」
「なに?」
「あぁ、いえ!何でもないです……目標は水没都市でしたね。」
二人はかつて、人類の最精鋭たるアンドロイド部隊「ヨルハ」の隊員として製造され、エイリアンより地球を奪還すべく、エイリアンの尖兵たる"機械生命体"との戦いを続けていた。
だが、戦争の最中遥か昔の人類の滅亡、ヨルハ部隊の壊滅と機械生命体ネットワークの崩壊を経て、地上に残留するアンドロイドレジスタンスへ合流していた。
現在はレジスタンスの首領"アネモネ"からの依頼を受けつつ生活している。ネットワークを失い無秩序化した機械生命体は未だ多く、平和とは言い難い世界ではあるが、ヨルハの生存者を含むアンドロイドたちは"自分たちの為に"生きるべく精力的に活動を続けていた。